PS4版が3月31日(PS3版は4月28日)に発売を控えた「スターオーシャン5 -Integrity and Faithlessness-」(以下,SO5)。SFとファンタジーが融合した世界観を持つシリーズの最新作は,フィールドでの移動やバトル,プライベートアクション(キャラクター間で起こるイベント)がシームレスにつながるというシステムが特徴となっている。
本作のプロデューサーである小林秀一氏,ディレクターである小川 浩氏,キャラクターデザイナーのあきまん氏に話を聞く機会を得たので,その模様をお届けしよう。前作(Xbox 360版)から7年という期間を空けてリリースされる本作だけに,企画の立ち上げや開発作業においてはさまざまな苦労があったようだ。
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4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まだPS3版の仕事などは残っているかと思いますが,PS4版の発売を控えた今のお気持ちを聞かせてください。
あきまん氏:
久しぶりにゲーム内のUIで使われるグラフィックスまで担当して,しっかりとゲームに携わることができて良かったです。僕は群衆の描写が苦手なので,必ず7人分のキャラクターを描くこの仕事は勉強になりました。
小川 浩氏(以下,小川氏):
まだ仕事は残っていますが,発売については“ほっとした”という気持ちが大きいですね。自分がこのシリーズに関わったのは2003年リリースの「スターオーシャン Till the End of Time」以来で,タイトル発表時の反響も予想以上でしたから。「真摯に作らなければ」というプレッシャーとか緊張感のある仕事でしたので,一区切りついたことはよかったです。
小林秀一氏(以下,小林氏):
かなりの難産でしたと振り返りたいところですが,PS3版の後は海外版の作業もありますし,「終わった」という気持ちにはなれないですね。そもそもスターオーシャンでやりたいことがまだたくさんありますので,開発作業が一区切りついたら,その次は“考える”ターンになっていくと思っています。プレイヤーのみなさんの評価や売上など,さまざまな形でSO5のジャッジが下された後,いかにシリーズを続けていくか考えるということですね。
4Gamer:
今,難産という言葉がありましたが,当初の発表からPS4版は1か月,PS3版は2か月ほど発売日が延期になりました。どのあたりの作業に時間が必要だったのでしょうか。本作はフィールドからシームレスにイベントやバトルに入って,しかもバトルでは味方キャラクターだけでも最大7人が参加するようですので,そのあたりの調整に時間がかかったのかなと想像しているのですが。
小林氏:
バランス調整なども行っていますが,実は東京ゲームショウ2015に出展した体験版への反応を受けて,新たな仕様を追加するために時間をいただいたんです。具体的には,バトル中に「ステップ」,フィールド移動中に「ダッシュ」ができるようにしています。
4Gamer:
あの時期から新要素を追加したんですか。もう開発も終盤ですよね。
小林氏:
まぁ,そうですよね。小川さんとも相当議論しまして,ステップは戦術としてではなく,プレイヤーが思いどおりにキャラクターを動かせるようにするため,つまりプレイフィールの改善を目的として実装いただきました。なので,これによってゲーム性が変化したということはありません。
小川氏:
「前回のバトル終了時に使っていたキャラクターで,次のバトルを開始できる」という要素も入れました。当初から導入したいものではあったんですが,シームレスなシステムならではの問題点があって,体験版の時点では実現できていませんでした。プレイした方からもいろいろと意見を頂いていましたので,あの期間で実装しようと。
小林氏:
開発が終盤になって,残りの工数が見えてきた段階だからこそ「ここで1か月もらえれば追加できる」という判断ができたんです。序盤ではほかにやるべきことが多すぎて,そこまで見通せませんでした。自分で言い出したことではありますが,実際の作業は大変でしたから,正直途中で何度も延期を後悔しましたね(笑)。地獄の1か月でした。
4Gamer:
延期したといっても,余裕ができたわけではなくて,逆にやることが増えたということですからね。
小林氏:
今までのタイトルなら,バトルやイベントなど,不具合のある部分のみを直せば良かったんですが,本作はシームレスにつながっているので,どこか一部分に変更を加えると,予想もしないところに影響が出たりするんですよ。
4Gamer:
あぁ,それは手間と時間がかかりそうですね。
小林氏:
ゲーム機をネットにつなげていない方もいらっしゃいますから,出来る限りバグは潰しておきたいと思っていましたので,チェックは大変でしたね。
“意思と力があるデザイナー”のあきまん氏に2回のオファー
4Gamer:
あきまんさんが開発の初期,キャラクターデザインの段階から本作に携わっていたというお話を前回のインタビューでうかがいましたが,多くのデザイナーの方からあきまんさんを起用した理由を聞かせてください。
小林氏:
はい,本作ではキャラクターデザイナーと3Dモデル制作班でキャッチボールをしながら,ゲーム内とイラストのキャラクターをお互いに反映させていくという,今までとは違った仕事の進め方をしたいと考えました。だからこそ,デザインに“意思と力”のある方にお願いしたいと思って,そこで思い浮かんだのがあきまんさんだったんです。
あきまん氏:
実は最初に小林さんからオファーを頂いたときは,スケジュールが合わなくて断ってしまったんです。そのあと再度オファーをいただいたんですが,今までそういったケースはあまりなかったので,ちょっと驚きましたね。
小林氏:
初めてお会いしたときは,一方的に僕らのスケジュールというか,都合だけを伝える,という感じになってしまいましたから,どういった形であればお願いできるのか,再度お伺いしようと。
あきまん氏:
2回目のときは,ちょうど専念しようとしていた仕事がなくなったタイミングだったんですよ。
小林氏:
そこで僕らはより具体的なお話をして,興味を持って頂いた次第です。僕の中では3回までは伺おうと決めていました。
4Gamer:
「三顧の礼」ですね(笑)。それくらいあきまんさんに惚れ込んでいたんですね。ではそのあきまんさんにお聞きしたいのですが,今回デザインした中で,一番思い入れがある,もしくは時間がかかったキャラクターがあれば教えてください。
あきまん氏:
ミキはちょっと苦労しましたね。ほかのキャラクターは自分がほぼすべてを作れたんですが,ミキはある程度デザインのベースがありましたので。いろいろと試行錯誤しました。
小川氏:
ミキに関しては,開発の最初期にプロトタイプとして実装していたキャラクターモデルをベースにしていただいたんです。
あきまん氏:
キャラクターデザインをするにあたって,シリーズ作品も参考にしたほうがいいだろうと,前作の「スターオーシャン4」を見たら,これが凄く線のある絵で……。
4Gamer:
1〜3のキャラクターはそれほどでもないんですけどね。
あきまん氏:
そうなんです。結果としてかなり線が多いものとなりましたが,これをまとめるのに凄く時間がかかりました。イラストを描くときも線の多さがネックになってます(笑)。
4Gamer:
たまたま「4」を手に取ったことが,今回のキャラクターにつながっているんですね。そういえば,前回のインタビューで,小林さんの“奇数ナンバリングタイトルの主人公は青い髪”というこだわりを聞きましたが,そこは小林さんからお願いされたわけですね。
あきまん氏:
はい。フィデルは企画書にあった青色にしました。それぞれのキャラクターは,まず色から決めているんです。7人が一緒に行動するということだったので,誰がどこにいるかが一目で分かったほうがいいだろうと。例えば一番小さなリリアは目立つ黄色にしています。
4Gamer:
確かに,公式サイトなどで見ても分かりやすいですね。
あきまん氏:
プレイヤーが“あいつはどこにいるんだろう?”と一瞬でも思った瞬間にゲームの面白さが損なわれますから。現在のゲーム機は表現力が高いので,これまでは考えられなかったような黒系のキャラクターも出せるんですが,今回は敢えてそれをせず,目立つ色を選びました。
4Gamer:
確かにこれだけキャラクターがいると,黒は目立ちづらいかもしれませんね。ほかに小林さんからあきまんさんにお願いしたことはありますか。
小林氏:
「このキャラクターはどういう行動をするのか」が見た目で分かるものにしてほしいとお願いしました。
4Gamer:
魔法を使いそうとか,格闘が得意そう……といった感じですね,
あきまん氏:
フィオーレはまさに魔法使いという感じにしましたが,ラフを最初に提出した時点で大喜びして頂いて“ここの開発チームとはけっこう相性がいいのかも?”と思いましたね(笑)。
4Gamer:
確かにフィオーレのデザインは衝撃的でしたね。
小林氏:
一発OKでした(笑)。
4Gamer:
あのデザインは以前から温めていたものだったんですか。
あきまん氏:
いえ,たまたま出たアイデアでしたね。このシリーズの魔法使いはエロくてもいい(※)ということだったので,あれが生まれました。最近のゲーム業界では,露出度の高い女性キャラクターを出すと,あとで修正を食らうという傾向にあるので,“エロいけど,肌が出ている面積は少ない”という感じにしたかったんです。……実際にはCERO Cになってしまいましたが(笑)。
※フィオーレはその高度な呪印の能力を誇示するために,紋章の入った肌を露出しているという設定がある。
4Gamer:
ええっ,さすがにフィオーレの衣装だけが原因ではないですよね(笑)。
小川氏:
いえ,ほぼほぼフィオーレの衣装です(笑)。
小林氏:
あと,海外からミキについて「ティーンがセクシャルな下着を着けているのは良くない」という指摘があって,布の面積を増やしたりもしました。
小川氏:
凄く悔しかったですね(笑)。
小林氏:
あきまんさんから頂いたデザインを基にフィオーレの3Dモデルが完成したとき,質感が加わったことで扇情的な感じが増していて,ちょっと驚きましたね。「これ,審査大丈夫か」と(笑)。
小川氏:
3Dモデルに起こしたときに少し等身が潰れた感じになって,ムチムチ感が強調されたんですよね。
あきまん氏:
幾何学的なものが有機的なものにくっつくとそうなるんです(笑)。
4Gamer:
あきまんさんはドットグラフィックスの時代からゲームに関わられてきましたが,ゲーム機の表現力が上がって,キャラクターデザインやイラスト制作の手法は変わりましたか,
あきまん氏:
変わりましたね。昔はプレイヤーの想像力を補うようなイラストを描いていました。「画面上ではドットの固まりだけど,実はこんな女の子なんだよ」という感じですね。
今はゲーム内の情報量が余りに多いので,イラストに時間の許す限り情報量を込めないとゲーム画面に負けてしまうんです。
小林氏:
さきほど,キャラクターデザイナーと3Dモデル制作班でキャッチボールをしながら作業を進める,という話をしましたが,具体的に言うと,まずあきまんさんがイラストを描き,それを基に3Dモデルを作ってあきまんさんに戻し,あきまんさんはその3Dモデルに合わせて立ち絵や宣伝用のイラストを描く……というやりとりをしているんです。
4Gamer:
素人からすると二度手間なんじゃないかと思ってしまうんですが,なぜそのような手順を踏むのでしょうか。
あきまん氏:
ゲーム内のキャラクターとイラストの印象差をできるだけ少なくしたかったんです。また,僕以外の人がキャラクターに手を入れることもありますから,そのためにも感覚を共通化しておいたほうがいいだろうと。
小林氏:
イラストを描いて頂く際,3Dモデルにバランスを近づけていただいくようにもお願いしました。こうすれば,プレイヤーさんが見たときに,イラストと3Dモデルどちらでも,記号的にフィデルならフィデルだと認識できるんです。過去のシリーズ作品ほどは差違を感じないのではないでしょうか。
4Gamer:
では,最初にキャラクターをデザインしたときと,最終的なイラストでは,どのあたりが変わったのでしょうか。
あきまん氏:
フィデルなら髪の毛ですね。最初の時点では,髪の毛がもっと広がっていて,後ろは「サイボーグ009」の島村ジョーのように尖った,“ワイルドな坊ちゃん刈り”のような感じでした。3Dモデルでは,こうしたイメージを拾って頂きつつも,ツンツンしたところが抑えられたナチュラルな感じになっていたので,それ以降はイラストもそのような髪型になっています。
4Gamer:
3Dモデルとイラストがお互いに影響を与えつつ,現在の形になったんですね。
あきまん氏:
そうです。なので,SO5の3Dモデルには独特の魅力がありますね。フォトリアルでもなく,コミカルなわけでなく。僕が描くイラストだとどうしても頭身が高くなるんですが,3Dモデルだとぎゅっと縮んで,単位面積当たりの情報量が増えているという感じがあります。画面も横長ですから,縮んでいる方がいいでしょうし。
そうやって,自分の描いたイラストが生まれ変わるのを見て,こういう新しい力を頂きたいと思いました(笑)。
4Gamer:
なるほど。ちょっと話が戻るのですが,さきほどあきまんさんが,開発の初期から,ミキのベースとなるプロトタイプのキャラクターモデルがあったと話されていましたよね。なぜ主人公のフィデルではなかったのでしょうか。
小川氏:
前作からかなり時間が経っての続編制作ですから,今回どういった絵作りをすべきかという課題がまずありました。フォトリアルにするのか,トゥーンに寄せるのか……マテリアル表現の方向性ということですね。そういった点から考えると,目の大きさやパーツのバランス,彫りの深さなど,一番振れ幅が大きく,難しいのが女の子ですから,こうした議題を考える上で最適だと判断しました。
あきまん氏:
フォトリアル,トゥーンと言ってしまうと分かりやすいですが,実際のところ,作品によって最適な画風というのは,微妙に違ってくると思うんです。
マンガ(トゥーン)というのは,人間が物語を描くときに一番労力がかからないように進化したものだと個人的に思っています。手で一コマ一コマ描くための最適化がなされたマンガ的画風は,コンピュータで表現するゲームにとっても最適なのか……というところは常に考えないといけないですね。
SO5では単純にトゥーン的なものを目指すのではなく,ゲームにとって最適な画風を探っているところが面白いと思いましたし,こうしたやり方は好きです。
4Gamer:
そういった,言葉にできないポイントを探る意味でも,あきまんさんと開発チームがやり取りしてキャラクターデザインを煮詰めていったわけですね。
あきまん氏:
そうです。ひょっとするとSO5という作品の後に,その画風を表現するための言葉ができるかもしれないですね。
小林氏:
トゥーンシェードにしてしまうと楽な部分はあるんですが,プレイヤーさんがワクワクするような絵という点では違うだろうという気がしていました。特に冒険する舞台としての,背景の密度感などですね。絵作りに関してはかなり議論しました。個々のキャラクターはもちろん見ていましたが,背景や照明が入った“最終的な絵”が出てくるまで,自分たちの選択が正解だったのか確認できなかったので,とても不安な時期を過ごしましたね。
ミキとフィデルのイベントシーンのテスト版をあきまんさんに見ていただいたとき「このミキがかわいい」という言葉をもらって,凄くほっとした記憶があります。
あきまん氏:
ゲームの中でフィデルを動かしたときに,残りの6人がワラワラとやってきて,みんなで楽しいことをしている感じというか……“学校帰りにデパートで買い食いする”感じがあって,それだけで楽しいと思いましたね。
「なんでもあり」の世界設定だからこそ絵で規定する
4Gamer:
「スターオーシャン」シリーズはSFとファンタジーが融合したような,ある意味「なんでもあり」な世界ですが,キャラクターデザインをされるうえでは,どちらかに寄っていた方がやりやすかったりするんでしょうか。
あきまん氏:
「なんでもあり」であるが故に,絵で規定しなければならないという部分はありますね。登場人物たちがシリーズ第1作以来の地元民(地球ではない,辺境の惑星に住む人々)なので,過去作品になかったような服装にしました。エマーソンなら生臭坊主,アンヌのイメージは中国娘ですが,当然この惑星に中国はないですから,「あまり人が住んでいないところからきたアヤシイ人」という感じになっています。ヴィクトルはヨーロッパの銃士的な印象にしました。
小林氏:
こちらからのリクエストは「未開惑星の物語」そして「シリーズのお約束として最後には宇宙へ出るので,宇宙へ出てもおかしくない感じ」だったんです。
4Gamer:
キャラクターが着ている服や,身につけている品物の質感が印象的ですよね。例えばアンヌのウエストバッグは組紐とベルトまで描かれていて,いかにも実在しそうな感じですし,ミキが腰に付けている物入れも目を引きます。リリアのリュックはかなり現代的なデザインですよね。
あきまん氏:
“旅をしている感”をせめて記号的にでも出したくて,いろいろなカバンを身につけてもらうのがいいんじゃないかと思いました。RPGで,キャラクターたちのお腹が減ったり,ご飯を食べたりという光景はロマンというか想像力を刺激すると思うんですが,システムとしてゲームへ組み込むのはいろいろと大変だったりもするので。僕らも外へ出るときはカバンを持ち歩いている訳ですし。
小林氏:
SO5はアイテムクリエイションがフィールドのどこでもできます。そうするとキャラクターたちは荷物をたくさん持ち歩くはずなので,カバンを持っているのはいいですね,というお話はしました。
小川氏:
食事をはじめとする生活感は,小説における“行間を読む”ところに近いと思っています。実際にゲームシステムで表現すると煩雑になりかねないんですが,こういった形でなら,プレイヤーさんの想像力を刺激するいいファクターなるのではないかと。
そういえば,昔制作に参加した某ファンタジーRPGで,トイレを作り込んで怒られたことがあります(笑)。
4Gamer:
(笑)。でも,そんな部分が遊んでいて心に残ることは確かにありますからね。
小林氏:
今回は7人が集まって移動するので,キャラクターの後ろ姿も大切にし,バックショットからキャラクター性が分かるようにしたかったんです。リリアは,小さな子供がリュックを背負っているのは分かりやすいということでああいう形となりました。
あきまん氏:
リリアのリュックには「オニグモ」という,あの世界の“ゆるキャラ”に相当するもののイラストが入っているんですが,ミキの杖にもオニグモのストラップがついているんです。僕の中の設定では,あのリュックはミキがリリアにプレゼントしたもの,という。
4Gamer:
そういったところでもキャラクター同士の関係が描かれているんですね。
あきまん氏:
ウサギとか,可愛らしいものにしてしまうと,ミキとリリアがフィデルを取り合っているような感じになってしまうんじゃないかと思ったんです。そうした意味ではミキの存在がリリアのデザインを規定しているような部分がありますね。
小林氏:
ちなみにフィオーレの場合,帽子についたネコ耳風の部分にチャックが付いていて,その中が物入れになっています。
あきまん氏:
開けて物を出し入れするようなシーンはありませんけど。
4Gamer:
どれも公式グッズとして存在してもいいくらいのリアルさですね。
あきまん氏:
フィオーレのコスプレはなかなかできないでしょうけどね(笑)。実現性はあまり意識せず,情報量を増やす方向でデザインしていきました。
4Gamer:
あきまんさんのキャラクターデザインがシナリオに影響を与えたようなことはありましたか?
小川氏:
シナリオが変わったということはありませんが,キャラクターの台詞回しや,プライベートアクションにおける声の芝居などには生きていると思います。特にフィオーレは,あきまんさんのキャラクターデザインが出てきたことで,台詞回しなどの方向性がキッチリと定まりました。
小林氏:
フィオーレのとあるプライベートアクションは,あきまんさんのキャラクターデザインありきのものでしたね。フィオーレがリリアに,自分のような洋服を買ってあげようかと聞くんですが,あっさりと断られるという(笑)。
4Gamer:
(笑)。確かにそれはあきまんさんのキャラクターデザインがあってこそですね。
小林氏:
エマーソンの顔にある傷も,かなり大胆なデザインですが,小川さんたち開発サイドに面白がって頂けたおかげで,彼のキャラクター性が確立しました。
小川氏:
3Dモデルの人相があまりに悪くて,最初は「どこの悪役なんだ」などと思いましたけど,傷のおかげでキャラが立ちましたね。
今の遊び方を意識して,“継承”と“進化”を判断する
4Gamer:
前回のインタビューで,小川さんは「継承すべき点は継承し,進化させるべきところは進化させる」と話されていましたが,「継承すべきところ」と「進化させるべきところ」はどのように判断したのでしょうか。
小川氏:
「とっかかり」と「継続性」といった部分が自分の中での判断基準でしたね。継続性は持たせた上で,初めてシリーズに触れるプレイヤーさんが戸惑わないようにしたい……と考えて開発を進めてきました。
実際,中盤くらいまではかなりライトに遊んで頂けるんじゃないかと思っています。難所はありますが,もの凄い時間をかけなければクリアできないようにはなっていませんし。シリーズのファンの方を意識しつつも,今のプレイヤーさんの遊び方を考えたチューニングをしています。
4Gamer:
時代に合わせた進化,ということですね。
小川氏:
ゲームにかける時間や,遊び方もさまざまになっていますから,昔のように開発サイドが意図した通りに遊んでいただく時代ではないと考えています。そういった意味ではプレイの幅が広いゲームになっていますね。
シリーズでおなじみのアイテムクリエイションも,今回はまったく使わなくてもプレイを進めていけるバランスにしています。もちろん使えばより深く遊べますが。
小林氏:
アイテムクリエイションを駆使すれば,ゲームバランスが壊れるほどに強烈なアイテムだって生み出せますが,あえてそこではバランスの抑制はしませんでした。アイテムクリエイションもユーザーが選んだ結果ですし,相応の見返りがあるべきと考えたんです。そこでバランスをとってしまうと,アイテムクリエイションのシステム自体が面白くなくなってしまいますし,こうした幅広さがスターオーシャンらしいんじゃないかと。短時間や低レベルクリアを狙ってもいいわけですからね。もちろん,クリア後のお楽しみもあります。
4Gamer:
小林さんは,SO5を手がける前は宣伝の仕事をされていたんですよね。外から見ていると,いきなり人気シリーズのプロデューサーになるというのは,かなり意外な転身に思えるのですが,どういった経緯だったのでしょうか。
小林氏:
ゼロからプロジェクトを立ち上げたのは今回が初めてですが,実は開発のプロデューサー自体は以前所属していた会社で経験があったんです。なので,自分としてはそこまで大きな転身とは思っていないですね。
4Gamer:
開発の経験もあったんですね。とはいえ,久しぶりに開発に戻るという決断も大きなものだったと思いますが。
小林氏:
宣伝でトライエースさんの作品を長らく担当していて,「スターオーシャン」というIPがこのまま消えていってしまうのがしのびなかったんです。これは他社さんでも言えることなんですが,最近はIPが次々と消えていっていますよね。しかも,やれることをやり切って終えるのではなく,さまざまな事情で作れなくなっているように思えるものが多い気がします。
数年先を見越して,IPをもう一度育てる必要があるんじゃないかと会社に提案し,改めて立ち上げたのがSO5なんです。
4Gamer:
元々,「スターオーシャン」シリーズがお好きで思い入れもあったそうですが,このシリーズなら自分がやるべきだという思いがあったんですか。
小林氏:
はい。できるのは自分しかいないだろうと思っていました。実はこのプロジェクトを立ち上げると五反田さん(トライエース代表取締役の五反田義治氏)にお話ししたとき,どうも半信半疑で受け取られていたようなんです。一度区切りを迎えて,しばらく時間も空いたシリーズですから。
ですが,僕がずっとトライエース作品の宣伝に関わっていたせいか,「小林さんがやりたいと言っているなら,企画だけでも考えてみましょうか」とおっしゃって頂けて。やはりずっとやってきたことが今につながっているんだろうなと思いますね。
4Gamer:
では,小林さんがそこまで惹かれたシリーズの魅力というのはどういった部分でしょうか。
小林氏:
僕はRPGが大好きなんです。ゲームの魅力全てが詰まっていて,夢がある。中でも「スターオーシャン」の方向性は,少年マンガの主人公になれるような感じがあって好きなんですよ。
4Gamer:
確かに剣と魔法,SFといったキーワードを見ても,少年マンガの雰囲気がありますね。小林さんが本作を立ち上げようと思った理由は分かりましたが,それを会社に認めてもらうのは大変ではなかったですか?
小林氏:
確かに現在のコンシューマゲーム開発はリスクが大きい部分がありますが,スクウェア・エニックスはコンテンツを作る会社ですので,きちんとその意図を説明できれば,理解してもらうのも早いんです。そういう意味でも,すごい会社だと思います。
4Gamer:
しばらく間の空いたシリーズの最新作というと,最近ではスマートフォンやブラウザ向けに,外伝などを展開するケースが多いようです。今回据え置き型ゲーム機向けのナンバリングタイトルにした理由を聞かせてください。
小林氏:
物語性の強いものは,受け手の感情を育てていくと思うんです。僕が子供の頃に字を覚えたのはマンガですし,本を読んで文章力を,映画を見て感情を育んできました。コンシューマゲームもそうしたことができるところに到達したと思っています。
そんな中で「スターオーシャン」の物語を表現し,そこから得られたものを心の糧としてもらうにはやはりじっくり遊ぶ据え置き型ゲーム機だろうと思って,少々無理を言ってやらせてもらいました。
4Gamer:
自分のような体験をしてもらいたいという思いでここまで開発してこられたんですね。
小川氏:
小林さんは,開発現場のことを考えていいものを作れるようにした上で,クオリティに関してはお客さん目線でのジャッジをして頂けるので,そこは凄く信頼していますね。
あきまん氏:
ゲーム作りというのは,あらゆる局面でピンチになるという意味で究極の現場の一つだと思うんですが,小林さんはそんな厳しい状況で,こぼれそうになるものをあきらめずに全部拾っていこうとするんです。何というか,すごく「まっとう」な人だと思います。
小林氏:
僕はクリエイターではないですから,皆さんのお力を借りて,作っていただいたものをまとめ,いかに商品性を高めていくかということを考えています。皆さんがゴールできるまでの道筋を作るのが仕事だと思っていますね。
4Gamer:
そうやって完成しつつあるSO5ですが,キャラクターやストーリーをしっかり描くというところは,最近ヒットしている海外産オープンワールドRPGの,プレイヤーが自由にゲームを進めるシステムと,ある意味対照的なところがありますよね。そのあたりに対して思うところを聞かせてください。
小林氏:
日本と海外のRPGでは「ロールプレイ」の仕方が違うと思うんです。海外のものは“その世界に自分が自分のまま入り込んで楽しむ”というもの,日本は“少年マンガ的な展開を主人公目線で体験する”ものが多いように思います。
「スターオーシャン」シリーズは後者ですが,シームレスにしたことでオープンワールド的な快適さのニュアンスもありつつ,シナリオドリブンなRPGになれたのが今回のSO5ではないかと思っています。“23歳という大人になりたてのフィデルが,大人としてどう成長していくか”という,遊んだ方にいろいろな意見を持ってもらえるストーリーになっていますので,その中で自分がどう思うか,この冒険から何を持って帰るのかということですね。
小川氏:
「スターオーシャン」はシナリオを見ていく側面も強いタイトルだと思うので,キャラクターがいることが大前提なんですが,今回のフィデルは過去作と比べると,プレイヤーさんに近い視点でストーリーを楽しめる主人公になっていると思います。
4Gamer:
では,最後にSO5を待ちわびているプレイヤーのみなさんにメッセージをお願いします。
小林氏:
実は技術的にいろいろと新しいことをしているゲームなのですが,触ってみると新しい感じがしないんです。これは正解だと思っているので,ぜひプレイしていただきたいです。開発中からずっとゲームを触ってきて,何が面白いのかということが麻痺している僕ですら面白いものになっていますから。
あきまん氏:
まずはまだ残っている仕事のクオリティをできるだけ理想値に近づけて,その後はプレイヤーとして,皆さんと体験を共有したいですね。
小川氏:
最後の最後までいろいろとチューニングをしましたので,遊びやすいゲームに仕上がっていると思います。皆さんのご期待に添えるタイトルになっていますので,楽しんでいただきたいです。
4Gamer:
ありがとうございました。
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