露呈した限界。「乾、香川からのアドリブ」が西野ジャパンの戦術だった

 日本はワールドカップで2大会ぶりにグループリーグを突破した。



 だが、そこに至る過程は少々複雑で波乱に満ちていた。ざっと整理すると以下のような具合である。



 グループリーグ最終戦では、日本はポーランドに0-1で敗れた。



 日本のグループリーグの成績は1勝1敗1分けの勝ち点4となり、セネガルと勝ち点で並んだ。



 しかも、勝ち点に次ぐ順位決定の条件である得失点差(ともに0)と総得点(ともに4)でも日本とセネガルはまったく同じ。さらには当該国間の対戦結果も2-2の引き分けだった。



 その場合、イエローカードとレッドカードの数によって算出されるフェアプレーポイントで順位が決められることになり、ポイントで上回る(イエローカードが少なかった)日本が2位、セネガルが3位となった。



 日本はポーランド戦終盤、1点リードされていたにもかかわらず、攻める気を見せずにボールキープで残り時間を費やした。



 同じ時間に行なわれていた試合で、セネガルがコロンビアに0-1でリードされていたため、両方の試合がそのままのスコアで終われば、日本がフェアプレーポイントでセネガルを上回ることがわかっていたからだ。

 しかしながら、セネガルが1点を返してコロンビアに追いつく可能性は最後まであった(その場合、セネガル1位、コロンビア2位、日本3位になっていた)。



 つまり、日本の決勝トーナメント進出は、かなりのリスクをともなう判断によって成し遂げられたものだったわけである。

 当然、ラスト10分ほど行なわれた時間稼ぎには賛否あるだろう。結果オーライではあったが、もしセネガルが同点に追いついていたら、かなり悔いの残る終戦になっていたはずだ。



 MF長谷部誠は、「カウンターでさらに失点する危険もあった。ああいう状況は(どう試合を進めるのか)曖昧にするのがよくない」と言いつつも、「リスクは間違いなくあった。試合が終わって、選手はそれを感じていた」とも話している。



 だが、そもそも、なぜこんなにもややこしい事態になったのかと言えば、日本がポーランドから勝ち点を得られなかったからだ。



 日本はポーランドに勝てばもちろん、引き分けでもセネガルvsコロンビアの結果に関係なく、自力で決勝トーナメント進出を決めることができた。そんな試合に、日本は同じ先発メンバーで戦った1、2戦目から、一気に6人を入れ替えて臨んだ。



 結果的に、この選手起用が裏目に出た。1、2戦目に比べ、攻守両面でチグハグなプレーが目立ち、イージーミスから相手にチャンスを与えることが多かった。それを考えれば、致命傷になりかねない2点目を失わずに済んだのは不幸中の幸いだった。




攻守ともにチグハグなプレーが目立ち、ポーランドに敗れた日本





 今の日本代表は西野朗監督就任以降、急速な変化を遂げた。ワールドカップ前の国内最後のテストマッチとなったガーナ戦は、ほとんど見るべきもののない試合だったにもかかわらず、その後の短期間で、驚異的なまでにチームとしての機能性を高めていった。



 その中心にいたのが、MF乾貴士であり、MF香川真司であろう。彼らが生み出す連係が次第に周囲を巻き込んで広がり、チームがチームとして機能するようになっていった。



 だが、それは西野監督が考える戦い方を地道にイチから落とし込んでいった成果ではなく、選手同士の感覚による”アドリブ”に頼ったものだった。だからこそ、選手たちは気持ちよくプレーでき、短期間でも共通理解を築き上げることができたわけだが、選手の感覚頼みの即興では”誰が出ても同じことができる”ようになるはずもなかった。



 まして一気に6人も入れ替えたのでは、今までと同じようにチームが機能するはずもない。図らずも、それを証明したのがポーランド戦だった。



 日本はコロンビア戦、セネガル戦と、2戦続けて非常に内容の濃い試合をした。だが、それを実現させるためには、ある程度固定したメンバーで戦い続けるしかないことがはっきりした。決勝トーナメント1回戦のベルギー戦へ向け、西野監督の手中にある選択肢はもはやそれほど多くない。

 今の日本代表は短期間で驚くほど急速に進歩した一方で、所詮短期間でできることには限界があることを示したとも言える。1、2戦目の内容がよかったために勘違いしそうになるが、わずかな準備期間で、そんなにすべてのことがうまくいくはずはない。



 それを考えれば、「0-1で負けて上がれるのはラッキー」(FW大迫勇也)。主力の多くを休ませ、それでもグループリーグ突破を果たせたことは、3戦目で起こりうる結果のなかで最良に近いものだったのではないだろうか。

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◆前回王者ドイツ敗退の深層。傲慢だったレーヴ監督の「理想主義」>>

前回王者ドイツ敗退の深層。傲慢だったレーヴ監督の「理想主義」

 ドイツもまた、”王者の呪い”から逃れることはできなかった。56年ぶりのW杯連覇を目指してロシアに乗り込んだドイツは1勝2敗、グループF最下位で大会から姿を消すことになった。



 前回大会王者がグループリーグで敗退するのは、2002年フランス、2010年イタリア、2014年スペインに続き、直近の5大会で4チーム目。なぜW杯4回の優勝を誇る強豪国は、同国史上初のグループリーグ敗退を喫することになったのか。




韓国に敗れ、呆然とピッチにたたずむメスト・エジル



 今回の敗退を、ひとつの理由に求めることはできないだろう。特定の選手のパフォーマンスだけが原因となることなどは、ありえない。さまざまな要因が少しずつチームの歯車を狂わせ、結果的にチームは機能しなくなってしまった。ただ、ヨアヒム・レーヴ監督の「理想主義」という観点から、敗退を読み解くことはできる。



 予兆は大会前からあった。



 大会直前に行なわれたテストマッチで、オーストリアに1-2で敗戦。ベストメンバーで臨んだサウジアラビア戦は2-1で勝ったものの、内容はおよそ褒められるようなものではなかった。簡単なミスでボールを失っては何度も危険なカウンターに晒(さら)され、マッツ・フンメルス、ジェローム・ボアテングというワールドクラスのCBコンビの奮闘で、何とか耐えていたからだ。



 ボールロストを減らし、ボールを失った場合に備えて適切な陣形を保ち、ボールを奪われれば必死に追いかけなければならないという警鐘は、選手からもメディアからも鳴らされていた。ただし、これはテストマッチゆえの緩みであり、本番になれば改善されるだろうと誰もが信じていた。

 しかし、残念ながらメキシコとの初戦でも同じ光景が繰り返された。序盤から何度もボールを奪われてはカウンターをくらい、そのうちのひとつが致命傷になってしまった。



「今日の僕らはあまりにも簡単だった。僕らはサウジアラビア戦のようにプレーし、相手は(サウジアラビアよりも)いいチームだった。不用意なボールロストやリスクマネージメントについてはチームで話をしていたが、改善されていなかった」



 メキシコ戦後のフンメルスの言葉は、危機管理意識の低いチームに対する悲痛な叫びとして響いた。



 続くスウェーデン戦は2-1で劇的な勝利を飾ったものの、根本的な問題解決には至らず、トニ・クロースのボールロストから先制点を許した。韓国戦でも終盤は焦りから攻撃が雑になり、何度も危険な場面を迎えることになった。先制点につながるCKもクロースのパスを中盤でカットされたところから始まっている。結局、今大会のドイツは最後までこの問題を解決することができなかった。



 多くのカウンターを許すということは、攻撃が行き詰まっていることの裏返しでもある。ただ、ドイツもまったくチャンスをつくれなかったわけではない。どれかひとつでもモノにできていれば、決勝トーナメントに進出することはできていただろう。しかし、それ以上はなかったはずだ。守護神マヌエル・ノイアーは「ラウンド16では誰もが僕らと対戦したかっただろう」と語っている。



 ドイツにとってもっとも問題だったのは、うまくいっていない戦い方を最後までやり通そうとしたことだろう。もっといえば、自らのスタイルにこだわったことにある。つまりパスサッカーだ。

 その兆候はレーヴ監督の言動からも明らかだった。レーヴ監督は大会前、ドイツ紙『WAZ』(ヴァッツ)に対して、こう語っていた。



「ドイツは過去の大会で、比較的いつも成功を収めてきました。しかし、2000年や2004年のユーロでドイツが見せたようなスタイルは、私を含めて多くのファンには気に入りませんでした。それは残念なことです。



 当時、私はユルゲン・クリンスマン前ドイツ代表監督に、『我々はまた、我々自身のサッカーをしなければならない』と進言しました。なぜなら、走る、戦う、スライディングするといったことは、小さな国にもできるからです。もちろんそれらは重要ですが、それだけではいけません。そうしたスタイルで再び頂点に立つことはないでしょう。ドイツの美徳は、プレースタイルに含まれていなければなりません」



 そんなレーヴ監督の志向は、選手選考にも反映されていた。レロイ・サネの落選はそれを象徴している。マンチェスター・シティで納得のシーズンを送った快速ウインガーの代表メンバー落ちは、ドイツだけでなく、世界を驚かせた。



 代わりに選出されたユリアン・ブラントも大きな才能の持ち主で、コンビネーションプレーを得意とするという意味で、チームにフィットする。しかし、アタッカーは似たようなタイプの選手ばかりになり、攻撃陣が機能不全に陥ったとき、別の形を用意することができなかった。



 サンドロ・ワグナーの落選も、レーヴ監督の考えを色濃く反映している。ワグナーは落選後、「僕は正直に口にするタイプ。どうもドイツ代表の指導者陣とはうまく合っていなかったようだ」と、自らの自己主張の強さが落選の要因であることを匂わせた。

 フィリップ・ラームやバスティアン・シュバインシュタイガーの引退後、ドイツ代表はリーダー不在が叫ばれていた。レーヴ監督はそのような批判に対し、「選手たちはそれぞれ自己主張ができる」と反論していたが、結果的に今回のメンバーの中に、自らの言動でチームの雰囲気を変えられる選手はいなかった。



 近年は美しいパスサッカーが代名詞になったドイツ代表だが、4年前のブラジルW杯での戦いは現実主義に徹したものだった。グループリーグでは4枚のCBを最終ラインに並べ、スタイルにこだわらず勝負に徹することで頂点に立った。



 ロシアで連覇を狙ったレーヴ監督は、自らの理想とするスタイルでそれを成し遂げようとした。誰もがドイツをその王座から引きずり降ろそうと研究し、対策を練ってくるなかで、自らのスタイルにこだわるドイツの戦いは、あまりにも愚直で、傲慢とさえいえるものだった。





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杉山氏は西野采配を支持。ベスト8進出の可能性は過去2回より高い

 フェアプレーとは何なのか。「ボルゴグラード・アレーナ」を埋めた観衆から、ブーイングを浴びる西野ジャパンを眺めながら、そう思わずにはいられなかった。最後まで全力を出し切って戦うことがフェアプレーの精神ではないのか。イエローカードを提示された枚数を、フェアプレーの尺度にしていることに、なにより疑問を覚えずにはいられなかった。



 日本の決勝トーナメント進出は、2002年、2010年に続き3度目だ。開催国として臨んだ2002年は、その特権としてAシード(第1シード)国に振り分けられため、グループリーグで戦う相手に世界のトップ8はいなかった。そのベスト16は、開催国特権で得た産物にほかならなかった。



 したがって今回のベスト16は、実質的に2度目だ。大喜びしたくなる結果ながら、大喜びを控えたくなる、なんともきまりの悪いベスト16入りの瞬間だった。






ポーランドに敗れながら、決勝トーナメント進出を決めた日本代表



 日本が終盤、DFラインでゆっくりボールを回している間に、そのとき0-1で推移していたセネガル対コロンビア戦で、セネガルにゴールが生まれたらどうするのか。入らないことを前提に、ボール回しを選択した西野朗監督は、つまり”他力”にかける選択に打って出た。その結果、大ブーイングを浴びたわけだが、それは、日本に浴びせられても困る話だ。原因はこのレギュレーションを作成した側にある。



 西野監督は試合後の会見で自ら、忸怩(じくじ)たる思いを吐露したが、後方でパス回しに徹した判断そのものは妥当だった。監督としてあるべき姿を示したといえる。



 ポーランドは、日本が後方でパス回しを始めると、無理にボールを追わなくなった。1-0で勝とうが2-0で勝とうが、彼らには大差ないのだ。

 日本はその直前まで、危ない空気に包まれていた。試合の流れはポーランドに傾いていた。後半29分、カミル・グロシツキのクロスに、中央で構えるロベルト・レバンドフスキが反応。その倒れながらの右足シュートはゴールをわずかに外れたが、あのシュートが決まってくれなくて助かったというのが、正直な気持ちだ。



 それでも、勝負そのものには0-1で敗れた。内容的にも、大会前に危惧されたよりはよかったとはいえ、ある意味で順当な敗戦だった。セネガル戦も、当初は一番戦えそうだと予想されたチームに引き分けたに過ぎない。



 日本がベスト16入りした最大の要因は何かといえば、このグループ最強のコロンビアに、2-1で勝利したことにある。このまさかの勝利は、開始3分、香川真司のシュートを、右手上腕部で止めたカルロス・サンチェスに、PK&レッドカードの裁定が下されたことにある。イエローカードというが処置もありえたが、コロンビア戦の笛を吹いたスロバキア人の主審が、日本に最大限、好意的な判定をしてくれたことが、日本のベスト16入りを大きく後押ししたことは間違いない。



 日本代表が、全体的に戦前の予想以上のプレーをしていることは確かだが、1チームがわずか3試合しか戦わないグループリーグは、ちょっとしたことで順位が変動することも事実。で、ちょっとしたことが起きやすいのがサッカーの宿命だ。日本のレベルが大幅にアップした末のベスト16というわけではない。



 とはいえ、だ。8年前、16年前より、決勝トーナメント1回戦には希望の光が差している。

 2002年日韓大会、2010年南アフリカ大会はグループリーグ突破が悲願だった。2002年は、W杯本大会への出場2回目にして、ベスト16に進出しなければ開催国として格好悪いというプレッシャーとの戦いを強いられた。それが適った瞬間、選手を含め、ファンも満足してしまったフシがあった。決勝トーナメント1回戦を戦う準備ができていなかった。



 2010年もグループリーグ突破が精一杯で、4試合目のことは眼中になかった。準備不足というか、特段の策がないまま決勝トーナメント1回戦を戦った。



 ところが、今回の西野ジャパンはそうではない。少なからず余裕がある。端的に表れていたのが、ポーランド戦のスタメンだ。1戦目、2戦目からスタメン6人を入れ替えて臨んだ西野采配を見てピンときた。トルシエジャパン(2002年)、岡田ジャパン(2010年)との違いを、そこにハッキリ見て取ることができたのだ。



 セネガル戦後、筆者は「できるだけ多くの選手を使い、そして勝つ。西野監督に求められる余裕とは」と主張をしていた。こう言ってはなんだが、こちらの期待しているとおりの選手起用を、西野監督はポーランド戦で実行したのだ。



 大博打ではあるけれど、これは定石。ベスト16を目標とするなら、出るだけではダメだ。そこで可能な限りいい戦いを追究する姿勢が求められる。使える選手の絶対数を、大一番に向けていかに確保しておくかは、目の前の勝利を追求することと同じぐらい必要なのだ。

 トルシエジャパン、岡田ジャパンはそれをせずに決勝トーナメント1回戦を戦い、そして敗れた。同じ轍を踏むわけにはいかないのだ。



 試合後の会見で、こちらとまったく同じ思いを述べていた西野監督の言葉を聞きながら、「これは期待が持てそうだ」と思わずにはいられなかった。

 ポーランド戦を「絶対に負けたくない戦い」と位置づけるならば、乾貴士は先発から外さない。大迫勇也も外さない。彼らをあえて外してポーランド戦に臨んだ西野監督の勇気を称えたくなる。勝利こそ収めることはできなかったが、ベスト16入りを決めた。この読み、決断こそ、監督に不可欠な才覚である。



 本当ならスタメンを、1戦目、2戦目と徐々にいじっていくのが理想だろう。3戦目にいきなり6人を代えることは大博打だった。リスクの高い采配だが、それを実行し、成功させた。フィールドプレーヤーでは、植田直通、大島僚太、遠藤航以外、試合に出場すればどの程度やれるか、見当がつく状態にある。もう1試合戦う準備は、過去2回より断然、整っている。



 7月2日、ロストフ・ド・ナヌで行なわれる決勝トーナメント1回戦。相手のベルギーは、コロンビアに肩を並べる強豪ながら、けっしてやりにくい相手ではない。相性はいいと見る。



 なにより日本は、昨年11月、ブルージュで対戦(結果は0-1)したハリルジャパン時代より、相手が嫌がりそうなサッカーに変わっている。過去2回より、断然、期待していいと思う。

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菊池雄星が好例。現代野球は「データリテラシー」が重要になる

 幕張に小雨が降る6月23日の昼すぎ、練習を終えてZOZOマリンスタジアムのクラブハウスに戻ろうとする菊池雄星の周りに、記者たちの輪ができた。登板翌日、先発投手が取材陣に囲まれることは珍しい。




今季8勝目を挙げて絶好調の菊池雄星



 前日、ロッテ戦に先発して7回無失点で今季8勝目を挙げた西武のエースは、ある問いかけを残していた。



「フォームを試行錯誤して、6回からかなり変えました。どの辺? 映像で見てもらえればいいと思います」



 筆者を含め、映像を見ても変化をわからなかった記者たちが翌日、答えを求めて集まったのだろう。



「わからないくらいの微妙なところでやっているということです」



 暗に解答を求めた記者を、菊池はイタズラな笑みを浮かべて焦らした。前日、「気持ちよく腕が触れるところ」と話していたことから推測すると、腕を振る角度を変えたのだろうか――。



「去年と比べて今年は9センチくらいリリースポイントが上がっていたんですね。それを前回(6月15日の中日戦)、そこから3センチくらい下に戻して。これから(データが)アップデートされると思うんですけど、昨日(22日のロッテ戦)の6、7回はたぶん去年と一緒くらいのところで投げていると思います。そこが一番、『腕が振られる場所』なのかなという感覚はありました」



 ロッテ戦の6回、菊池のストレートは目に見えて力強さを増した。試合序盤は142キロを計測することもあったが、この回は150キロと唸(うな)りをあげる。通常、マウンドを降りる直前のイニングでは力をフルスロットルに開放し、その日の最速を記録することが菊池にとって珍しくない一方、ロッテ戦の6回は決してギアを上げたわけではないという。



 約10センチの微差に菊池が気づいたのは、6月8日の巨人戦に投げた後だった。



 データを確認すると、リリースポイントの高さがわずかに上がっている。前年と同じ投げ方に戻せばストレートの威力が上がることは想像に難(かた)くなかったが、15日の中日戦は僅差の展開だったためにリスクを冒さなかった。それから1週間後、22日のロッテ戦でリードが3点から5点に広がった6回に試すと、予想どおりのボールが放たれた。

「基本、身体の軸をどこに持っていくかという話なので。その角度を縦ではなく、少し斜めに修正すればいい。『腕を下げる』という意識より、側屈(そっくつ)角次第です」



 側屈とは、下半身に対して上半身を真横に傾けることだ。この角度をどうするかが、投球動作では重要だと菊池は言う。



 ポイントは「腕を振る」ではなく、「腕が振られる」という表現にある。



「側屈角が上がって腕が上がるのはいいんですけど、それが上がらずに腕だけが上がるとしたら、(肩や肘への)負担になってしまう。(今季序盤は)側屈角がそんなに出ていないのに腕だけ上がっていたので、(上半身単独で)腕を振るしかなくなっていました」



 側屈角の違いによるリリースの微差は、わずか10センチ。ロッテ戦後にデータを確認すると、菊池の感覚は正しかった。



「高さというより、腕を振る位置が身体から少し離れていました。10センチくらいですね」



 ロッテ戦の6回以降は、腕を振る位置が適度に身体から離れたことで、腕の角度が下がった結果、”腕が振られる場所”からリリースされて自身の求めるボールを投げることができた。こうした感覚にたどり着いた裏には、昨季途中に導入されたテクノロジーがある。



「何センチという差はビデオでは当然わからないので、『トラックマン』をうまく活用して今シーズンはやっています」



「トラックマン=高性能弾道測定器」は日本球界でもすっかり浸透し、現在は広島を除く11球団が本拠地に導入している。このテクノロジーにより、打者や投手のさまざまな感覚が可視化されるようになった。たとえば、昨季メジャーリーグで吹き荒れた「フライボール革命」では、打球角度30度前後、打球速度158キロ以上の場合に打球が飛びやすいと証明され、本塁打数が激増した。



「データを活用して成長できない選手は、淘汰(とうた)されていく時代になると思います」

 昨年12月に行なわれた『スポーツアナリティクスジャパン2017』の「野球データ革命がもたらすもの」というセッションで、解説者の小宮山悟氏はそう語った。実際、菊池を見ていると、データリテラシーの重要性がよくわかる。



「結果が出ないときっていろんなことに手を出したくなるんですけど、自分の調子が悪くなるときは、この数字が落ちるとか、リリースポイントが後ろになってしまうとか、トラックマンを見ればわかります。だから、迷う要素がひとつ、ふたつ減るのが一番大きいと思いますね」



 菊池は試合が終わるたび、トラックマンのデータを専門家と一緒に分析し、普段の調整に活かしている。それが、防御率を5月4日時点の3.86からロッテ戦後に2.57まで改善させた背景にある。



 そして今、取り組もうとしているのがカーブのアップデートだ。現状は121キロ前後だが、あと3、4キロ速くしたいと言う。



「ストレートの球速が100%だとしたら、スライダーは92%くらい、カーブは70%前後が空振りゾーンで、それ以上遅くなると当てられるというデータがあって、照らし合わせながらやっています。統計でしかないですけど、実際、空振りを取れているカーブは、それに近いパーセンテージのところで推移しています」



 菊池にとって「第3の球種」という位置づけのカーブは、今季、投球におけるウエイトが高まった。昨季までは「カーブが甘く入って打たれたら後悔する」と信頼度が低かったが、今季は意識的に考え方を変えたからだ。



「去年は相手が真っすぐ、スライダーとわかっていても、真っすぐ、スライダーを投げていたんですけど、今年はそういうときにカーブを投げて救われています。春先、肩の調子がよくなかったからこそ、カーブを投げないと抑えられないところで去年以上にカーブの割合が増えていって、いつの間にかいいカーブになっていました」

 オープン戦の時期の寝違えで調整が遅れた今季序盤、ストレートとスライダーを思うように操れないなか、頼りになったのがカーブだった。球種の掛け合わせは実に興味深く、カーブを最大限に活かすため、ストレートの質をあえて理想より下にとどめていた。



「どのピッチャーもそうだと思うんですけど、僕の場合はカーブの腕の位置は真っすぐより3センチくらい上がります。今年はカーブで抑えていた試合が多かったので、(使える球種から)消えるのが嫌で、(側屈角を)変えませんでした。でも昨日(22日のロッテ戦)の6、7回に投げた感じだと、真っすぐもカーブもきれいに投げられました」



 一般的に、カーブは親指と中指(人差し指は中指に添えるイメージ)の間から抜きながら縦回転をかけるため、腕を上から振るような感覚で投げる。その角度が下がると、変化量が落ちて甘い球になりやすい。そのリスクを避けるため、菊池はストレートの質にはある程度、目をつぶっていた。



 しかし、5月上旬から二軍で調整してコンディションや感覚が上向き、6月1日に一軍昇格後は理想の投げ方ができるようになってきた。そこで、今はカーブを改良し、勝負球にも使えるようにしたいと目論んでいる。



「カーブって紙一重の球です。ランナー三塁でバットに当てられてしまうと、サード線にコンコンコンって転がって1点とかもありますから。そういうリスクが一番少ないのは空振りなので、それを取れるところまで持っていきたい。



 本当はナックルカーブみたいに(人差し指で)弾けばスピンも効いて速くなるんでしょうけど、今はいい感覚なので握りを変えるのは難しい。カウントを取るときはゆっくり、三振を取るときは思い切り振るという感じで投げているので、常に思い切り振る感覚にしていければ空振りをとれると思います」

 球種の掛け合わせと同様、データは感覚と適切にマッチさせることで効果覿面(てきめん)になる。球界でもっともデータ活用が進んでいる某球団の関係者は、「トラックマンは所詮プロセス。ITを入れれば勝てるわけではなく、コミュニケーションの手段でしかない」と話していた。



 データはあくまで、過去の蓄積だ。過去の傾向を妄信的に信頼すると、現在の感覚との乖離(かいり)から落とし穴にハマる可能性がある。



 しかし、過去の蓄積である統計は、絶対的な事実の積み重ねといえる。過去の傾向から対策を導き出し、現在の感覚をうまく結びつければ、未来の答えの輪郭が見えてくる。



 データ×感覚――。両者の絶妙な掛け合わせにより、選手のパフォーマンスは大きく左右される時代になった。データで解析できる領域が増えているからこそ、「巧みな活用=コミュニケーション」を深めた者たちは、熟れた果実を手にすることができる。



 その好例が菊池雄星だ。球界トップクラスの能力を誇る左腕は貪欲に成長の手がかりを探し求め、合理的に努力しながら、グラウンドでのパフォーマンスをアップデートし続けている。



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CBC賞は、この低迷馬3頭が「今年もそろそろ走るか」と言っている

 メンバーが手薄になりがちな夏競馬のハンデ戦。それも、ちょっとしたことで着順が大きく変わる1200m戦となれば、多くの人が”波乱”の展開に期待を膨らませるのではないだろうか。



 7月1日に行なわれるGIII CBC賞(中京・芝1200m)は、まさにそうした条件がそろっていて、穴党が好むレースと言える。



 実際、過去の結果を振り返ってみると、何度となく波乱が起こっている。2009年には12番人気のプレミアムボックスが優勝。3連単は45万9460円という高配当となった。



 その他、2008年のテイエムアクション(12番人気で3着)、2011年のタマモナイスプレイ(13番人気で3着)、2014年のニンジャ(10番人気で3着)、そして2017年のセカンドテーブル(13番人気で2着)などが波乱を演出。ふた桁人気の馬が頻繁に上位に食い込んでくる、非常に”荒れやすい”レースだ。



 であれば、今年も狙いは高配当馬券。そこで、過去10年の結果を参考にして、今年のレースで穴を開けそうな伏兵馬を探し出してみたい。



 まず着目したいのは、先行馬だ。



 前述した2011年のタマモナイスプレイや、昨年のセカンドテーブルは、いずれも先行策から粘り込んでいる。また、昨年のレースで3着に入ったアクティブミノル(8番人気)も、先手を取って上位入線を果たし、波乱の結果にひと役買った。



 とりわけ、セカンドテーブルとアクティブミノルは、もともと重賞勝ちがある実力馬。近走で勝ち星から遠ざかっていたために人気を落としていたが、展開さえ向けば、上位入線を果たす力は十分に備えていた。低評価でマークが薄くなるなか、先行脚質を武器にして快走したと言える。

 とすれば、今年も狙うべきは、実績のある先行馬。該当するのは、2年連続で出走するアクティブミノル(牡6歳)とセカンドテーブル(牡6歳)、そしてワンスインナムーン(牝5歳)あたりか。ただ、ワンスインナムーンは上位人気になりそうで、穴馬として挙げるにはふさわしくないかもしれない。




昨年も2着に入って穴を開けたセカンドテーブル



 ということで、昨年も波乱を演出した2頭、アクティブミノルとセカンドテーブルに、その”再現”を期待してみるのはどうだろうか。



 アクティブミノルは、昨年のCBC賞のあと、オープン特別での2着、3着が1度ずつあるが、近3走はオープン特別でいずれも8着と精彩を欠いている。



 セカンドテーブルも、CBC賞のあとに長期休養。今年1月に復帰して、ここ2戦はオープン特別で2着、4着と善戦しているが、前走では1番人気を裏切っている。



 そうした状況にあって、2頭とも再び人気薄になる可能性が高いが、昨年のレース直前の低迷ぶりに比べれば、今年のほうがまだマシ。得意舞台で気持ちよく先行できれば、またも波乱の立役者となってもおかしくない。



 無論、2年連続で穴を開けるのは決して簡単なことではないが、CBC賞では2012年、2013年と連覇を遂げたマジンプロスパーをはじめ、2008年に2着、2009年に3着となったスピニングノワール、2010年に1着、2011年には2着という結果を残したヘッドライナー、さらにはダッシャーゴーゴー(2011年=1着、2012年=3着)、サドンストーム(2013年=3着、2015年=3着)など、”リピーター”が多い。



 こうした傾向も、アクティブミノルとセカンドテーブルの再度の激走への後押しになるのではないだろうか。

 過去の歴史を見て、次に目につくのは「重賞勝ち馬の復活」である。



 昨年のアクティブミノルとセカンドテーブルの他、冒頭でも触れたプレミアムボックスもそうだ。プレミアムボックスは、前年のGIIIオーシャンS(中山・芝1200m)の勝ち馬だった。



 これらに共通しているのは、重賞やオープン特別を勝って以降、長きにわたって勝ち星から遠ざかっていたこと。特にプレミアムボックスとアクティブミノルは、重賞勝ちのあと、馬券圏内(3着以内)に絡むことさえなかった。それが、CBC賞で突然の復活を果たしたのだ。



 今年のメンバーの中で、これらと同様に重賞を勝ってから長く低迷している馬を探してみると、1頭見つかった。トーキングドラム(牡8歳)である。同馬は、昨年のGIII阪急杯(阪神・芝1400m)を勝って以降、ずっと上位入線を果たせずにいる。この馬が今回復活すれば、かなりの高配当が見込めるだろう。



 ただ、トーキングドラムは、プレミアムボックスやアクティブミノルに比べて、やや負けすぎといった感がある。重賞勝ち以降、掲示板に載ることさえなく、前走のオープン特別でも勝ち馬から1秒2も離されての大差負けだった。



 プレミアムボックスやアクティブミノルは低迷していたとはいえ、掲示板に載ることはあった。直近のレースでも、勝ち馬から1秒以内の着差に収まっていたことを考えると、トーキングドラムの復活はさすがに厳しいかもしれない。

 そこで、代わりの馬をピックアップしたい。重賞勝ちではないものの、オープン特別を勝って以降、勝ち星から遠ざかっているトウショウピスト(牡6歳)である。



 同馬は昨年11月にオープン特別のオーロC(東京・芝1400m)を制したが、その後は4走連続でふた桁着順に沈んでいる。それでも、前走のオープン特別・安土城S(5月27日/京都・芝1400m)では、勝ち馬からコンマ1秒差の5着と善戦。久々の好走で復調気配を漂わせている。



 なお、2走前のGII京王杯スプリングC(5月12日/東京・芝1400m)も、着順こそ11着だったが、勝ち馬とはコンマ5秒差の僅差だった。その際は、安土城Sの勝ち馬で、今回人気が予想されるダイメイフジ(牡4歳)にも先着している。



 ずっと結果を出せていないため、今回も人気は上がらないだろうが、人気馬との実力差は決して大きくない。長い低迷から復活した過去の馬たちと同様、CBC賞で突然の復活があっても不思議ではない。



 上半期の総決算となるGI宝塚記念が終了し、いよいよ本格的な夏競馬がスタート。もうすぐ訪れる夏休みを満喫するためにも、ここに挙げた3頭が高配当をもたらしてくれることを期待したい。

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「絶対エース」へ成長中の黒後愛。スランプ脱出でプライベートも充実

 今年が初開催となった国際大会のネーションズリーグ。全日本女子バレーボールチームは決勝ラウンドには進めなかったものの、9月に行なわれる世界選手権に向けて多くの収穫と課題を得ることができた。



 なかでも”絶対エース”の誕生に期待を抱かせたのが、全日本デビューを飾った20歳の黒後愛だ。




全日本デビュー大会となるネーションズリーグで活躍した黒後愛



 180cmの新星は、下北沢成徳高校を卒業してVリーグの強豪である東レアローズに入団すると、2017-2018シーズンはルーキーながら攻守で活躍。最優秀新人賞を獲得した。そして、全日本デビューとなったネーションズリーグでは、6月7日のタイ戦で29得点を挙げるなど、大会が進むにつれて大器の片鱗をのぞかせた。



 中田久美監督からも「エースとしての成長を期待している」と期待を寄せられる黒後に、初のVリーグで得た手ごたえ、全日本での今後について聞いた。



――まず、Vリーグ1年目を振り返っていかがですか?



「高校時代と違い、全日本で世界と戦ってきた選手や、Vリーグで何年も経験を積んでいる選手がいるので、その選手たちと戦えたことは自分にとってプラスになりました。1年を通して出場できたことがすごく大きかったです」



――リーグの最中に、元東レアローズの迫田さおりさんにアドバイスをもらったと聞きましたが。



「1レグで対戦した各チームにデータをとられて、対策されてスランプに陥ってしまったんです。そんなときにリオ(迫田)さんに『みんながつないだボールは、ミスしても打ち切らないと』とゲキを飛ばされました。



そこで目が覚めて、『どんなに決まらなくても、トスを呼んでアタックを決めるのが自分の役割。ブロックがきても弾き飛ばすくらいじゃないとだめだ』と腹をくくり、スランプから脱出することができました」



――相手チームからサーブで狙われることが多かったですね。



「サーブを受ける本数は、多ければ多いほどいいと思っています。自分が狙われるほうが崩されずに返せると思うので。これからは、どんなに打たれても全部Aパス(セッターが動かずにトスアップできるサーブレシーブ)で返せるようにしたいです」



――プレーオフであるファイナル6も戦いましたが、レギュラーラウンドと違うと感じたところはありますか?



「レギュラーラウンドは8チーム総当たりで3巡するので、ひとつ試合が終わっても、『次がある』と思いながら戦っていました。それに対して、ファイナル6は6チーム総当たりで1巡しかしないので、あっという間に終わりました」



――気の抜けないシーズンだったと思いますが、オフはどう過ごしていましたか?



「初めてのオフには、成徳高校に顔を出したり、下北沢を探索したりしました。高校時代は寮生活で街をゆっくり歩くことがなかったので、いろんな発見があって楽しかったです。リーグが終わってからは、同い年でVリーグに入った荒谷栞(あらたに・しおり)や東谷玲衣奈(とうこく・れいな)たちと遊んだりもしましたね」



――荒谷選手、東谷選手らと戦った昨年の世界ジュニア女子選手権では銅メダルを獲得し、今年は全日本デビューを飾りました。アンダーエイジカテゴリーでプレーしていたときと比べて、自身に変化はありましたか?



「アンダーエイジカテゴリーでは、同世代や成徳でチームメイトだった選手とプレーすることが多かったので、お互いのプレースタイルがある程度わかった状態からチームを作っていきました。メンバーが集まった時点で、『こういうチームになりたい』というイメージができていたんです。



 でも、全日本では初めて一緒にプレーする選手がほとんどで、しっかりコミュニケーションをとっていかないと自分の意思が伝わりません。積極的に自分から声をかけていこうという意識が、一番変わったところだと思います」



――全日本のなかでよく話をする選手はいますか?



「やはり同じ東レのジュリさん(堀川真理)やジンさん(田代佳奈美)、あとは戸江真奈さん(久光製薬スプリングス)ともよく話します。真奈さんは合宿の最初のミーティングのときにすごく緊張していて、 みんなが書類と筆箱を持ってきていたのに、 真奈さんは書類と歯磨きセットを持ってきたんです。『え、歯磨きセット?』と聞いたら『間違えたー!』と、顔が真っ赤になって(笑)。年齢では真奈さんのほうが4つ上なんですが、それ以来すごく仲良くなりました」



――中田監督ともコミュニケーションは取れていますか?



「バレーの話はもちろんですが、久美さんとはそれ以外の話もたくさんします。私が実家に帰ったことが話題になったときは、久美さんが私の父と昔からの友人なので、『私の悪口を言ってたでしょ(笑)』と冗談を言われることもありました。



 世間では厳しいイメージがあるかもしれませんが、久美さんはとても優しい方です。私自身は高校時代までは男性の監督のもとでプレーしていたので、そこも新鮮です。この前は、『いい美容室に行ってきなさい。紹介してあげるから』とも言われました(笑)」



――身だしなみについても指導があるんですね(笑)。



「久美さんは、『私をどうあか抜けさせるか』というのも課題にしてくださっているみたいです(笑)。でも、久美さんが行っているようなおしゃれな美容室は『私がそこに行ってもいいのかな』って気後れしちゃって。今は行き当たりばったりでお店を選んでいるんですが……。久美さんオススメの美容院に行くべきか悩んでいます」



――プレー面についてはどんな話を?



「ディグ(スパイクレシーブ)で足首の力を抜くように言われたことはよく覚えています。そこを指摘されたのは初めてだったので」



――攻撃面では、昨年のチームで少なかったバックアタックも期待されていると思います。黒後選手の大きな武器ですよね。



「バックアタックは、好きか嫌いかと言われたら好きです(笑)。私がそこで得点を決められるようになればフロントの選手を助けられるので、積極的に打っていきたいです」



――最後に、今後の意気込みを聞かせてください。



「東京オリンピックが2年後に迫っていますし、今年は世界選手権もあります。メンバーに選出していただいたからには、やはり試合に出ていいプレーをしたいという気持ちは強いです 。



 世界のトッププレーヤーの高さやスピードを体感しながら、自分の最大限の力を出していこうと思います。そこで潰されても這い上がればいい。とにかく、自分の100%を世界相手にぶつけていきます!」

あの元巨人のダメ助っ人が、日本での失敗に学びメジャー監督で成功へ

 昨季、66勝96敗でナ・リーグ東地区の最下位となったフィラデルフィア・フィリーズが、今季は42勝36敗(6月28日現在)と大健闘。同地区の首位を走るアトランタ・ブレーブス(昨季は72勝90敗の3位)と並ぶ、2018年の”サプライズチーム”になっている。

 若手中心のフレッシュなメンバーを、今季から巧みに操縦しているのが42歳のゲーブ・キャプラー監督だ。


2005年に巨人でプレーした経験がある、フィリーズのキャプラー監督



 その名前に聞き覚えのある日本のプロ野球ファンも多いだろう。メジャーで合計12年という長いキャリアを過ごしたキャプラーは、2005年に読売ジャイアンツでプレー。攻守に優れたバリバリの元メジャーリーガーとして、来日当初は大きな期待を集めた。

「日本での出来事は今ではポジティブな経験として捉えているよ。多くを学んだ。いいプレーができなかったのは私自身の責任。もっと貢献できていれば、ジャイアンツにとって、私にとって、より良い経験になっていたはずだったんだ」

 キャプラーのそんな言葉は、日本で成功できなかった選手のありきたりなコメントに聞こえるかもしれない。2005年に読売ジャイアンツの一員となったキャプラーだったが、開幕から17打席ノーヒットと苦戦。38試合で打率1割5分3厘、3本塁打とまったく活躍できず、同年7月8日に自ら契約解除を申し出た。

 いわゆる”助っ人”としては、明らかに”大失敗”だ。ウィキペディアなどを見ても、あまり好意的ではないエピソードが記されており、本人の中でも苦い記憶として残っているだろう。

 一方で、キャプラーの「今ではポジティブな経験」という言葉は、必ずしも月並みな決まり文句とは言えない。今季前半戦での手綱捌きを見ると、若き日に過ごした異国での日々が、少なからず好影響を及ぼしているように思えるからだ。



「第1にコミュニケーション、第2にコミュニケーション。そして第3もコミュニケーションだ」

 現在はクリーブランド・インディアンスで監督を務めるテリー・フランコーナが、ボストン・レッドソックス時代に”監督にとって大事なもの”についてそう述べていたことがあった。監督への批判は選手起用の失敗などに集中しがちだが、大事なのは必ずしもそこではないという。

 ミリオネア揃いのMLBで指揮を執るにあたり、重要なのは選手と心を通わせる能力。日頃からコミュニケーションをしっかり取っておけば、大胆な投手交代をしても波風が立つことはなくなる。監督としてはルーキーにも関わらず、キャプラーはその真実を確実に理解しているように見える。

「コミュニケーションについて多くのことを学んだよ。相手の話を注意深く聞くことが大事だし、チームメートが何を必要としているかを知ることが重要だと気づいた。日本でそういったことを学んだのは大きいし、今でも役に立っている」

 口先だけではなく、実際にキャプラーが選手たちとの関わりを大事にしていることは明白だ。若い選手には頻繁にテキストメッセージを送り、打撃練習が始まる前にクラブハウスで声をかける。何か伝えたいことがある場合は、メディアを通して話すのではなく、番記者から見えない場所でじっくりと話すという。

 今季開幕直後のキャプラーは、不可解な投手交代を繰り返したことで激しく批判された。3月31日の試合で、ウォームアップを行なっていない投手を起用した事件は大きなニュースとなり、ホーム開幕戦では紹介時に大ブーイングを浴びた。

 しかし、そんな失敗さえも乗り越えられたのは、クラブハウスでの対話を忘れなかったからだろう。開幕当初にブルペンが疲れを感じていた際、チームリーダーのひとりである投手のパット・ニシェクの進言を受け入れ、より多くの休みを与えた軌道修正は高く評価されている。



 少なくとも現時点までは、アメリカ人以外の選手ともうまく通じ合っているように見える。5月下旬、アメリカのスポーツウェブサイト『The Athletic』に掲載された特集では、ドミニカ共和国出身のカルロス・サンタナ、マイケル・フランコとも良好な関係を築いていることが強調されていた。

「外国人に対しては、継続した形で努力を示すこと。言葉の壁があるため対話が快適ではないことがあるが、それでも努力を続けることが大事なんだ」

「英語が母国語ではない選手とのコミュニケーションのカギは?」と聞くと、キャプラーからは上記の答えが返ってきた。なかなか意思が通じずに傷つくことがあっても、勇気と根気を持って話し続けることは言語学習の基本でもある。

 キャプラーは、第3回、第4回のワールド・ベースボール・クラシックで、イスラエル代表の監督、コーチを務めた。2014年以降はドジャースのフロントに入り、多くの外国人選手たちを扱った。

 それらと同様に、日本での日々が肥やしになっている部分もあるに違いない。こういったさまざまな経験から、キャプラーが外国人選手との対話に関して明確なフィロソフィーを育んできたことは容易に想像できる。

 もちろん、依然として再建途上のフィリーズがこのままスムーズに勝ち続けるとは限らず、”青年監督”の力量は試され続けるはずだ。試練を味わう時期もくるだろう。しかし、”Be Bold(もっと大胆に)”をキャッチフレーズに、長期的な視野に立ってのチーム作りを掲げるキャプラーが大きく戸惑うことはないだろう。

「日本での日々で後悔する点があるとすれば、もっと長くいることを前提に取り組まなかったこと。当時の私は若く、日本で短い時間だけプレーし、アメリカに戻ろうと思っていた。より長期的な視野で物事を考えておく必要があったんだ」

 このように苦い経験を公に話し、反省できることもキャプラーの成熟を物語っている。成功だけでなく失敗も味わってきた人だからこそ、忍耐強く取り組み、前に進むことができる。今では長い目で人間関係を築けるようになった42歳は、フィラデルフィアでの野球人生の集大成といえる成功に向けて、今後も着実な歩みを続けていくに違いない。

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「自分が点を取りにいく」。比江島慎は崖っぷちの日本バスケを救えるか

 2019年に開催される男子バスケットボールのワールドカップ。その1次予選の最終決戦となるWindow3が、ホーム&アウェーで6月29日と7月2日に行なわれる。


日本のエースとして牽引する覚悟を語った比江島慎



 ここまで4戦全敗の日本は、現在グループ最下位で、3位までが進出できる2次ラウンド進出には赤信号が灯っている。しかも、6月29日に日本がオーストラリアに敗れ、チャイニーズ・タイペイがフィリピンに勝利してしまうと、7月2日のチャイニーズ・タイペイとの直接対決を待たずして1次予選敗退が決まってしまう。

 この危機的状況において日本は、210cmのニック・ファジーカスが帰化選手として加わり、NCAAの強豪ゴンザガ大で活躍する八村塁を招集し、これまで劣勢だったインサイドの攻防に希望を見出だそうとしている。

 しかし、6月15日と17日に行なわれた強化試合の日韓戦では、1戦目こそ新加入の2人の活躍で勝利したものの、2戦目には対応策を取られて敗戦。チームの連係を高めることが急務となっている。ここで、活躍してもらわないといけないのが、決戦直前のインタビュー第2弾として登場する日本のエース比江島慎だ。

 1次予選4試合で平均18.5得点、3アシストはチームトップの成績。BリーグでもシーズンMVPを獲得した比江島は、名実ともに日本を代表するポイントゲッターであり、アジアの中でも認められている存在だ。ニック・ファジーカスと八村塁という強力なインサイド陣が加わった中で、比江島の新たな役割とは何か。そしてこの危機的状況にエースは何を思って戦うのか。時間をかけながら考え、答えてくれたインタビューを決戦前に記す。

―― 一次予選で4連敗したことをどう受け止めていますか。

比江島慎(以下、比江島)Window2でチャイニーズ・タイペイとフィリピンに負けて4連敗したときは、ショックが大きかったけど、今は切り替えて上を向いている状態です。

――フィリピンやチャイニーズ・タイペイに勝ち切れなかった原因はどこにあると思いますか?

比江島 今回に限らず、僕が代表に入ってから接戦を勝ち切ることが少なく、勝負どころでチーム力の差というものが出てしまいます。それは明らかに経験不足……だと思います。

――これはチーム作りの問題でもありますが、これまでの日本には確実な得点源がなく、比江島選手の孤軍奮闘が目立ちます。この状況をどう思いながら戦っているのですか?

比江島 みんなも得点を取れるだけの力はあると思うのですが……場数を踏んでいない分、国際大会の雰囲気に飲まれてしまうのだと思います。僕も代表に入ったばかりの頃は試合に出ても何もできなくて、何度も強い相手にトライして自信がついてきました。僕は強い相手とやることで燃えてくるので、それを経験してある程度は力を出せるようになったと思います。

――エースとしては、経験がない選手の分も引っ張ってやろうという気持ちですか?

比江島 そうですね。今は、僕が点を取りにいかないとヤバイ、という状況になってしまうことが多いので、そこでもっと役割分担ができるようになればチーム力は上がっていくと思うのですが……。

――日本代表で自信がついてきて、自分がエースにならなければ、と感じたのはいつ頃ですか?

比江島 中国でのアジア選手権(2015年)の頃だと思います。あの大会は田臥さん(勇太、栃木ブレックス)についていって、自分は力を試す大会だったんですけど、得点が取れるようになり、あのあたりから自分がエースにならなければ、という気持ちが少しずつですけど出てきました。

――2015年のアジア選手権は、日本が18年ぶりにベスト4に進出した大会でした。準決勝でフィリピンに惜敗したとき、フィリピンのヘッドコーチが悔し涙を流している比江島選手に「You Are Champion」と声をかけて労(ねぎら)ったことが印象に残っています。それほど、相手チームにとっても比江島選手がマークすべき対象になり、得点力が確立した大会でした。

比江島 その時期から自信がついてきました。今はあの頃よりは責任感がありますが……結局、エースとしてチームを勝たせられていないので、もっと自分で攻めなければいけないです。

――これまでは比江島選手の得点に頼っていましたが、Window3からファジーカス選手と八村選手が入ることで、日本のバスケはどう変わりますか?

比江島 やはりインサイドで点が取れることが大きいです。彼らで点を取るフォーメーションも増えたし、苦しいときにインサイドにボールを入れると攻めてくれるので頼もしいです。それに、塁はトップスピードで走れるので、速攻が出やすくなっています。

――ただ、ファジーカス選手と八村選手が得点を取れば、韓国との1戦目のように比江島選手がボールを持つ機会が少なくなってしまう。これはインサイドにボールを預けることが多くなったシステムの問題でしょうか?

比江島 個人的な反省としては、韓国との1戦目はディフェンスがダメでした。韓国の新しいメンバーの情報があまりなくて、43番(イ・デソン)があんなに速いとは思わず、15分のプレータイムでファウルアウトしてしまいました。自分は長い時間出てリズムを掴むほうなので、ファウルトラブルになっては、なかなか調子が上がらなかったです。

 得点面では遠慮していたわけではないのですが、インサイドで点が取れていたし、止められるまで同じセットをしろという指示だったので、僕がボールを持たなくても大丈夫という感じはありました。でもまあ、そういう日もあると思うので……そのときは切り替えるしかないです。

――韓国との2戦目はインサイドが守られてしまったこともあり、今度は比江島選手の出番とばかりに得点を取っていました。今後もインサイドとの兼ね合いを見て攻めることになりますか?

比江島 自分としては1戦目が悪かったので、得点を取ることを意識して臨みました。そこでニックと塁がなかなか波に乗れていなかったので、積極的に中に切れ込んでいきました。2人が波に乗れない時間帯もあるはずなので、そこは彼らを呼び起こすじゃないですけど、そこまでは自分の時間帯と思ってやりました。でも、負けてしまったので、もっと自分が中に切れ込んでいけばよかったと思います。

――ファジーカス選手と八村選手が入った中で自分のやるべき役割とは?

比江島 やることは変わらないです。ペイントエリアにドライブして得点することは自分の仕事だと思っているし、ラマス(ヘッドコーチ)からも、そこはしっかりアタックしろと言われています。

――韓国戦や1次予選のフィリピン戦、チャイニーズ・タイペイ戦でもそうなのですが、日本は対応されたことに対してゲーム中で修正しきれず、受け身になることが多いです。ライバル国に対応力や積極性の差を感じたことはないですか。

比江島 結局、そういうところが経験不足なんだと思います。韓国との2戦目は自分たちのディフェンスが悪かったし、逆に向こうがディフェンスの当たりを強くしてきたので、球際のボールを取られて、そこから流れが相手にいってしまいました。改めて、国際大会ではディフェンスを強くしなければ勝てないと痛感しました。

――比江島選手にとって、今の予選を戦った先にあるワールドカップ、そして東京オリンピックとは。

比江島 僕の今の目標は東京オリンピックに出ること。そこにたどりつくまでには世界を知っておくべきだと思うので、そのためには絶対にワールドカップに出て、公式戦で強豪を相手に戦うことが大事だと思います。世界に出ることで自分の意識も変わると思うし、絶対に出たいです。いや、出なきゃいけないところです。

――以前に「海外でプレーしたい気持ちはある」と言っていましたが、強豪のオーストラリア相手にアピールすれば、国際的な評価が上がるかもしれません。そういう欲はありますか?

比江島 それはあります。そこらへんは意識したいです。

――今でも海外でプレーすることに対して興味がありますか?

比江島 もちろん興味はあります。(29日のオーストアリア戦では)NBA選手も来日しますし、そんな相手にぜひ自分のプレーを試してみたい気持ちが大きいです。もちろん、勝つという気持ちが一番ですけど。オーストラリアは本当に世界的なレベルで、速くて、高くて、力強いし、うまい。そういうチームと対戦するのは楽しみです。

――決戦となるオーストラリア戦とチャイニーズ・タイペイ戦に向けての抱負を聞かせてください。

比江島 結果が求められますし、結果を出さないといけないです。オーストラリアは簡単に勝てる相手じゃないけど、(対戦を)楽しみにしている相手。11月の予選では3クォーターまで何とか食らいつけたので、ニックと塁が入ることでチャンスがないわけではないと思っています。チャイニーズ・タイペイは絶対に勝たなければならない相手。Window3では出足から集中して、何があっても自分が得点を取りにいきます。

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用意周到なイングランド。日本が対戦するならセットプレーに要注意

 W杯ロシア大会グループGで2連勝し、決勝トーナメント進出を決めたイングランド代表。4年前のW杯ブラジル大会では1勝も挙げられずにグループステージ最下位で敗退しただけに、今大会は上々のスタートを切った。とくに今大会は、強豪国がグループステージで軒並み苦戦。その意味でも、早々と突破を決めた意義は大きい。


セットプレーから4ゴールを決めているハリー・ケイン



 ただし、ここには注釈がつく。初戦のチュニジア、2戦目のパナマとも、個人能力でいえばイングランドとの力の差は歴然としていた。

 とくに6−1の歴史的大勝に沸くことになったパナマ戦は力の差がありすぎて、イングランドの力を測る物差しにならなかった。縦パスやクロスボールを入れれば、空中戦と球際でことごとく勝利し、ほぼ決まってシュートチャンスにつながったからだ。

 むしろ、気になったのは初戦のチュニジア戦の出来である。前半こそ前方から圧力をかけて押し込んだが、チュニジアが4バックから5バックに切り替えた後半は、途端に攻撃が手詰まりになった。分厚い守備ブロックを前に、イングランドは味方の足もとにパスをつなぐばかり。3人以上の選手が連動して絡む攻撃は見られなかった。

 ここに、イングランドが抱える継続課題がある。

 イングランドの基本フォーメーションは3バックシステムの3−5−2。2トップにラヒーム・スターリングと得点源のハリー・ケインを入れ、左右両サイドにウィングバックを置く。

 攻撃の起点になるのは、このウィングバックだ。ウィングバックからスピードスターのスターリングに縦パスを入れたり、サイドを崩してアーリークロスを入れる。そして、昨季のプレミアリーグで年間30ゴールを叩き出したケインにラストパスを送るのが、基本的な攻撃パターンになる。

 しかし、相手が守備を固めてくると、途端に手詰まりになる。こうした一本調子な攻めはイングランドの課題であり、流動的なアタックで相手ゴールを崩し切ることは少ない。むしろ、前線の「個の力」に依存する傾向が強く、現代表もこの問題を解決できていないのだ。



 また、相手の出方によって臨機応変にシステムや攻め方を変える「対応力」にも乏しい。攻撃が停滞したチュニジア戦の後半は、こうしたウィークポイントが露呈された格好である。

 そんなイングランド代表に、チュニジア戦で勝利をもたらしたのはセットプレーだった。このセットプレーこそが、現時点でもっとも威力を発揮しているといっても過言ではない。

 過去にはデビッド・ベッカムやスティーブン・ジェラードら優れたプレースキッカーを擁したが、現代表に世界的名手と呼べるキッカーはいない。それよりもアイデアや空中戦の強さを生かして、ゴールを量産している。

 グループステージ第2戦までにイングランドが挙げた8ゴールの内、セットプレーによる得点は実に6ゴールにのぼる。内訳はCKが3ゴール、FKが1ゴール、PKが2ゴール。なかでも、2−1の接戦となったチュニジア戦で決めた2ゴールは、いずれもCKからケインがネットを揺らした。用意周到に準備してきたCKのパターンから、ケインが仕留めたのである。

 両得点ともキッカーは、ペナルティマーク付近をめがけてボールを入れた。競り合うのは、188cmのジョン・ストーンズや、194cmのハリー・マグワイアの長身DF。そして、ケインはこの空中戦に加わらず、ファーサイドに突進。セカンドボールやGKがこぼしたボールを狙う役割を担った。

 たしかに、1−1で迎えた後半アディショナルタイムにケインが挙げた決勝ゴールは、この形から生まれた。かくいう筆者も、「なぜケインがそこに?」と驚きを隠せなかった。

 ただ、英紙『タイムズ』によれば、7回あったCKのうち4回は、「PKスポット付近にボールを入れ→ファーサイドにつめたケインに渡す」流れだった。そのうちの2回がゴールになり、勝利につながったのだ。つまり、ケインの得点力を生かそうとする「チーム戦術」が功を奏した格好で、ケインがあえてファーサイドに動いたわけでも、感覚だけで決めたわけでもなかった。



 こうした成功の裏には、セットプレーを担当するコーチのアラン・ラッセル氏の存在がある。パナマ戦の4点目となったFKのトリックプレーも、このスコットランド人コーチの発案によってもたらされたという。ガレス・サウスゲート監督は「セットプレーは今大会のカギになると考えていた。同時に、改善が見込める要素であるとも感じていた」とし、セットプレーの練習に多くの時間を割いていると明かす。

 グループステージ2戦でセットプレーから4ゴールを挙げているケインも次のように語る。

「セットプレー担当のアラン(・ラッセル)とトレーニングを積んでいる。日々の練習の最後に必ず行なっているんだ。相手のDFとGKの特徴や、どこに弱点があるかを伝えてもらっている」

 イングランドと決勝トーナメント1回戦で対戦する可能性のある日本代表も、このセットプレーに注意が必要なのは間違いなさそうだ。

 開幕前、英国内では代表チームへの期待が非常に低かった。英紙『サンデー・タイムズ』で健筆を振るうジョナサン・ノースクロフト記者は、「W杯で優勝する可能性は極小」とまで言い切った。

 実際、黄金世代を擁した2006年ドイツ大会や2010年南アフリカ大会では、ロンドン市内のバーで試合を観戦しようものなら入場料を取られたものだが、今大会ではほとんどのパブで入場料なしで観戦できる。黄金世代時のW杯にあったような、国をあげての異常な盛り上がりは今のところ感じられない。

 ただ、勝負はここからだろう。グループステージ第2戦までは格下との対戦が続いた。その意味でも、イングランドの真価が問われるのは決勝トーナメントからである。強豪国との対戦時に、もろさの目立つ守備陣がどこまで踏ん張れるか。あるいは、平均年齢25.6歳の若いチームが大会を通してどこまで成長できるか。

 このあたりが、イングランドの最終順位を決めそうだ。

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ドイツの轍を踏むな。日本がポーランド戦で先発を変更すべき理由

 西野朗監督とGK川島永嗣が出席した日本代表の公式会見。それがスタートした17時(現地時間)とほぼ同時刻にキックオフしたドイツvs.韓国戦で信じられない結末が待っていた。

 0−0で迎えたアディショナルタイムに韓国が2点を決め、アップセットを起こしたのだ。これで前回王者はグループ最下位で大会から姿を消すことに――。


西野監督の川島永嗣に対する信頼は厚いようだが......



 その衝撃は、日本がコロンビアを下した以上のものだった。

 公式練習を終えたばかりの日本の選手たちも、ゲーム終盤の模様をロッカールームのテレビで見ていたようだ。

 メディア対応が割り当てられた選手のなかで最初にミックスゾーンにやってきた植田直通は、「明日は我が身だな、と思いました」と語った。

「自分たちも(決勝トーナメント進出が)決まっているわけではないし、油断していたら同じようになると。気を引き締めて」

 これはグループ突破に王手をかけていたドイツと日本を、2連敗で敗退濃厚だった韓国とすでに敗退が決まっているポーランドを重ね合わせた見方。一方、韓国と日本を、ドイツとポーランドを重ね合わせたのは、昌子源である。

「アジア勢がヨーロッパに勝った。僕らも今回、同じシチュエーションなわけで、アジアにとってはすごくいいこと。韓国とは立場が違いますけど、僕らもヨーロッパ勢を下して、次のラウンドに上りたいと思います」

 いずれにしても、アジアのライバルが世界王者を倒した一戦が、さまざまな意味で選手たちの刺激になったのは間違いない。

 たしかにポーランドは2連敗を喫し、グループステージ敗退が決まっているが、それが日本の勝利を約束するものではない。それは、前日、敗退が決まっていたモロッコがスペインを追い詰めて一時は逆転、最終的にドローに終わった結果からもよくわかる。

 敗退が決まったチームがプレッシャーから開放され、最終戦でベストパフォーマンスを見せることは、よくある話なのだ。香川真司も気を引き締めている。



「ポーランドはプライドを持って戦ってくると思うし、彼らは失うものがないんで、よりアグレッシブに自分たちのサッカーを仕掛けてくると思う。これを最後に引退する選手も数名いると聞いたんで、彼らなりにいろんなモチベーションを作って戦ってくるし、経験のある選手もいるんで、本当に難しい試合になると思う」

 ポーランドでもっとも警戒すべきは、言うまでもなく世界屈指のストライカー、ロベルト・レバンドフスキである。どんなメンバーで挑んでくるかはわからないが、ポーランド記者によると、レバンドフスキは必ず出場してくるだろうとのこと。そのレバンドフスキにチャンスボールを集めるサイド攻撃こそが、ポーランドのストロングポイントだ。

 サイドの攻防を制すためにも、サイドの選手たちには万全のコンディションが求められる。セネガルとの第2戦からポーランド戦までは中3日しかない。日本はここまで2試合続けて同じメンバーが先発しているから、疲労が溜まってくるころだろう。ましてやボルゴグラードは日中、気温が40度近くまで上がるのだ。

 西野監督は会見で、「これからトレーニングのなかで確認をしてから、最終的に判断したい」と語った。5月末にスタートした国内合宿から全選手にチャンスを与え、総力戦で戦ってきたわけだから、思い切ってメンバーを変更するべきだ。

 サイドハーフの原口元気と乾貴士に代わって宇佐美貴史、武藤嘉紀、酒井高徳。ボランチの長谷部誠に代わって山口蛍。センターバックの昌子に代わって槙野智章をピッチに送り出す――。少なくとも、5人くらいは入れ替えていい。

 また、長谷部と乾はすでに警告をもらっている。ポーランド戦で2枚目をもらってしまうと決勝トーナメント1回戦で出場停止になってしまうため、その意味でも休ませるべきだろう。



 コロンビア戦、セネガル戦とミスが続き、批判を浴びているGK川島はおそらくスタメンに名を連ねるだろう。先制点を献上したセネガル戦でのミスはお粗末だったが、その後、リカバーして39分にはFWエムバイ・ニアングとの1対1を防いでみせた。

 川島自身も会見で「批判されるということに対して覚悟がなければ、この場所にはいない」と堂々と語ったが、公式会見の出席者に川島を指名したという事実に、指揮官の川島への信頼が感じ取れる。ポーランド戦もおまえに任せるぞ、という信頼が。

 勝利はもちろん、引き分けでもグループステージ突破が決まる。しかし、今や欠かせないチームの心臓となった柴崎岳はきっぱりと言った。

「この2試合と変わらない気持ちで臨みたいと思っている。危険な雰囲気を感じているので、この2試合と同じような集中力、入り方、雰囲気で、決して引き分け狙いではなく勝利を目指してやっていきたい」

 一丸となって2試合続けて勝点を掴み取り、自信を深めてきたこのチームに慢心はないはずだ。グループ首位の日本に対し、ポーランドはグループ最下位。しかし、日本は次の試合でもこれまでどおりチャレンジャーの精神で臨む。

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