photo/杉田容子 5月28日にダイジェスト版を配信した「しまむら 北島常好社長のインタビュー」。今回はその完全版です。業績の低迷が続くしまむら。2018年2月期はリーマンショック直後以来の減収になり、かつてデフレの申し子と並び称されたユニクロとの差が広がっています。そうした中で今年2月に野中正人社長が会長に。しまむらは復活できるのか。北島常好新社長に、『販売革新』編集長の西岡克が26の質問で迫る!
(聞き手/『販売革新』編集長・西岡克)北島常好(きたじま つねよし) 1959年1月14日埼玉県浦和市(現さいたま市)生まれ。83年3月流通経済大学経済学部卒業後、しまむら入社。96年2月商品1部長、2009年3月西日本開発本部長、同5月取締役、12年5月台湾の思夢樂股份有限公司董事長、13年5月常務取締役、15年5月取締役専務執行役員、17年2月飾夢楽(上海)商貿有限公司董事長。18年2月21日代表取締役社長 社長執行役員に就任。最近は和服に凝っており某サプライヤーと「和服を大切にする会」を結成したという。
――社長交代の経緯は。
北島:昨年11月に野中(正人現代表取締役会長)が社長を退きたいと表明。12月に本社で会議をしているときに呼ばれて行ったら、部屋には藤原(秀次郎相談役)もいて「社長をやってくれ」と。即座にお断りしました。最終的には年が明けてから決めました。
――野中社長時代の13年間の総括と新社長としての抱負は。
北島:この13年間は優れたプラットフォームに乗っかってブラッシュアップすることが主で、大きな変化はありませんでした。営業的には上海に出店したくらい。これからは新しい種を少しずつまいていこうと考えています。
問題はその方法です。今までは一つの事業を立ち上げてつくり上げていくという重量級の手法でした。今後はもっと軽く早くできるように、主力業態の「しまむら」など既存事業から切り出していった方がいいだろうと。その方が雨後のタケノコのようにぽんぽこぽんといろんなものが出てきますから。失敗したらやめればいい。
新規事業は「しまむら」からスピンオフしてもいいし「アベイル」や「シャンブル」からでもいい。そうして取っ掛かりになりそうなものを幾つもつくっていく中で1つ、2つ格好がつくものが出てきたら事業部として広げます。
市場性をよく見ながらニッチな部分に入っていく攻め方をしていきます。できれば年に1つか2つぐらいずつ開発して。早ければ今年は2つくらい単独の店にできるかもしれません。
国内3000店達成時には売上高1兆円を狙う
――18年2月期は9期ぶりの減収減益になった。
北島:最大の要因はアイテムを絞り過ぎ、整理整頓し過ぎたことだと思います。定期発注の変更など絞り込みに伴う施策は打ったのですが、それらが全部、年末年始まで遅れて、結局、前期の業績には寄与しませんでした。
――絞り過ぎというのは、買いやすい売場を実現する「2016年型新レイアウト」に売場を変更したときに、商品量を減らし過ぎたということか。
北島:はい。16年型の売場は旧売場に比べて商品の25%が入らない設計で、本来は75%にすればよかったのになぜか60~70%まで商品量を減らしてしまったのです。
什器の連結を少なくして見通しが良く、買い回りしやすくして、商品一点一点が見えるようにするのが狙いでした。
平台の山積みもできる限りやめて、フェースを見せるように改良しました。
これを今年2月まで毎月50店ずつ2年かけて全店に導入したのです。
――特に婦人アウターを絞り込んだ。
北島:やり過ぎました。紳士はうまくいったのですが。婦人のアイテム数は前年に比べて約2割減りました。その前年も2割減らしているのでピーク時に比べると都合4~5割減ったのでは。16年は婦人が好調だったので16年くらいがバランスの取れたアイテム数だったのだろうと思います。
――今期(19年2月期)から始まる3カ年計画の骨子は。
北島:前3カ年計画では「変わること」をテーマに、商品政策や商品管理、システムを変えようとしました。今3カ年計画では国内3000店に向けて仕組みやインフラをつくり直します。
――3000店体制になるのはいつごろ。
北島:今期末には国内2184店になる計画なので、年間100店出店したとして9年後に3000店に到達します。
3000店になっても耐え得る基盤(インフラ)整備をこの3年間でしようと。
もちろん今ある業態だけでは無理なので、新規業態も開発していきます。
衣料品を中心としたソフトグッズの国内市場は10兆円弱とか14兆円といわれています。もう一つ柱にするのは、国内3000店になったときにその市場の1割のシェアを取ろうということです。するとおおむね1兆円の売上高になる。それは3年後ではありませんが、そのときの市場にはEC(電子商取引)が2、3割ある。ECもそのうちの1割は頂こうと。だから1兆円の売上げをやろうと思ったらECで1000億円、当面は100億~500億円規模をイメージして基本設計をしていきます。すると今から準備を始めないといけないので、外部を取り込みながら最良のシステムを組み立てます。
寝具・インテリアで新業態、次はイレギュラーサイズ
――新業態の開発だが、まず寝具・インテリアの専門店をデビューさせる。
「新業態のアイデアは今20案程度ある。服飾雑貨とコスメだけの店、ビューティ&コスメの店、米国の『ヴィクトリアズシークレット』のような下着専門店の案もある」と北島社長。 北島:「しまむら 寝具・インテリア館 Zzz...と」を靴の「ディバロ」神戸西店を業態転換し5月24日にオープンします。
コンセプトは「価格に敏感、睡眠を科学する」。世の中で5万~6万円する商品を何とか半値以下の価格帯に収めます。幅広い年代を対象にしますが、今回は売場面積120坪で総花的に商品を置けないし「アベイル」の隣なのでエージ感をヤング寄りにします。本来は総合的な品揃えで250坪が理想です。
――展開アイテムは。
北島:商品は大きく寝装、寝具、インテリアの3つに分類し、ほぼフルアイテムを展開します。寝装にはホームウエアやパジャマも含み、インテリアにはインテリア雑貨まで含みます。布団、枕、枕カバー、ベッドリネン、ベッドパッドなどを展開。インテリアはクッション、タオル、バスマットやトイレマットなどのマット類、小物ならドアノブカバーとか。この店は置けませんが、面積があればベッドやソファ、カーテンも置こうと思います。
――1店当たりの売上高は。
北島:150坪では1億円がいいところ、理想の250坪なら3億円まで売れたらいいなと。売上総利益は約40%。
かなり高回転の店ができます。一格上までそろえるので1品当たりの単価は3000円台、客単価は4000円を想定。
「しまむら」の商品も一部投入します。この1店だけのプライベートブランド(PB)も作ります。「しまむら」が扱うのと同じ素材を使えば、切り口を変えていろいろ作れます。
――出店立地と当面の出店数は。
北島:基本的にはフリースタンディングです。どうしても商品が大きくなるので、持ち帰りを考えるとショッピングセンターよりも目の前に駐車できる方がいい。取りあえず3店はなるべく早く出店して動きを見ます。今年中に2店目ができればいいかな。店舗開発の専用部隊は持たず、既存店から業態転換をしたい店をリストアップして、5店くらいまでは業態転換になる可能性が高いです。
――将来的な事業規模は。
北島:ニッチな世界なので500億円も稼げればいいのでは。寝具・インテリアで価格を打ち出した専門店は僕の知る限り四国にある「ふとんのタカハシ」(社名・高橋ふとん店、本社徳島県松茂町、高橋武良社長)だけです。
――イレギュラーサイズの新業態も。
北島:大型店の売場内の30~60坪で品揃えの実験をもう少し繰り返した方がいいかなと。当社はラージサイズに強いのですがそれだけでなく新たにスモールサイズも導入し始めています。
布団を掛けると足が出てしまうという大きい人も結構いるので布団や寝具といった実用品まで広げようと思います。
――現在品揃え実験をしている店は。
北島:「しまむら」東大宮店(さいたま市)など1300~1600m2の面積を持つ大型店の一角で200m2程度を使って品揃えを検証しています。5月からさらに10店ほど増やします。
――インバウンド(訪日外国人客)を意識した品揃えも昨年京都駅前に開店した1600m2の大型店、京都アバンティ店で実験している。
北島:多店舗化を前提にしたものではなく、「借りるより安い浴衣」をキャッチフレーズに浴衣と着物を充実させた品揃えを博多バスターミナル店や浅草ROX・3G店、アクアシティお台場店など5店ほどで実験しています。
戦略を転換しネット通販に参入、全国にDC拠点
――いよいよネット通販に進出する。以前は「ECは絶対にやらない」と言っていた。戦略を転換した理由は。
北島:一番大きいのは衣服の総需要10兆円弱の中でECが1兆数千億円まで市場を拡大してきたからです。この比率はもう無視できない。
やり方の一つはゾゾタウンやヤフー、楽天など既存の通販サイトに出店してしまうことです。
もう一つはアプリを開発してスマートフォン(スマホ)で注文できるようにして、1週間かかるとしても店で渡す取り寄せの仕組みをつくること。
そして将来的にボリュームが出てきたら全国何十カ所かに拠点を造ります。
DC(在庫型センター)として造るのか、売上げが厳しくなった店をEC用に転用するのかは別として。今商品センターが全国10カ所あるので、そのセンターの周辺に拠点を造ってDCにしてそこからデリバリーをして店に取りに来ていただくのであれば可能かなと。
最終的には決済手段やタグの問題などを解消した上で、拠点からラストワンマイルを配送できる仕組みをきちんと設けておきたいと考えています。
――通販サイトへの出店はいつごろ。
北島:昨年11月ごろからサイトとの交渉を始めましたが、遅れています。
手数料や棚卸しの方法などの課題が残っています。アマゾンは未交渉です。
――ECサイトで展開する商品は。
北島:PB「クロッシー バリュー」は低価格過ぎて採算が取れないので「クロッシー」と「クロッシー プレミアム」を基本に展開します。浴衣や子供の入学・卒業用のスーツ、女の子のフォーマルなどの他社が価格で勝てない飛び道具的な商品も拾い上げます。
サイト側にも展開してほしい商品群があり、機能性がある寝具・インテリア関係をしまむら価格でやってくれと。
――ECで注文した商品の店舗での受け渡しはいつからスタートする。
北島:秋の立ち上げ商品から始めようと。今も店で注文すれば店舗で受け渡しできます。サイトに注文すればサプライヤーにオーダーをかけられるシステムを今組んでいるところです。
――将来的な拠点づくりだが、全国10カ所に商品センターがあるので、例えば福島センターの近くの店を丸ごとDCにしてしまおうと。
北島:そうそう。基本的にはEC専用DCに在庫してそこからセンターに持ち込めば、翌日には店舗に配送される。すると恐らく1、2日で店で受け取れるようになります。
それによって自社サイトが運営できます。店舗での受け渡しから始めて、次の段階で拠点づくりができたら、お客さまに直接配送する。3年かかると思っています。拠点を設ければ配送距離が短くなり、頂く配送賃も下げられます。そのためには決済手段を多様化して、経理とシステムが同時に動くようにしなければいけません。
「しまむら」はあと200店造れる 大型店の出店も
――今後の出店戦略は。今期は100店を新規出店し、うち「しまむら」が40店を占める。
北島:今期は少し比率が高いですが、今後は「しまむら」、カジュアルの「アベイル」、ベビー・子供用品の「バースデイ」はそれぞれ3割ずつ、生活雑貨の「シャンブル」が1割を基本にして、バランスは各業態の業績を見ながら決めていきます。靴の「ディバロ」や今回始める「しまむら 寝具・インテリア館 Zzz...と」、あるいはイレギュラーサイズなどはまだカウントしていません。
苦戦が続くしまむら。既存店の売上げは3月度まで7カ月間前年割れしていたが、4月度は久しぶりに前年を上回った。 ――主力業態の「しまむら」は国内で何店まで成立すると考えているか。
北島:首都圏や関西圏を見ると、1500~1600店まではいけるのではないかなと思います。前期末で1401店ですから頑張ってあと200店。そこからはスクラッブ&ビルドとか、2店を1店に統合するとか、さまざまな技術を使わなければ駄目でしょう。常に店舗は更新していくという考え方です。
それと柱になる大型店を新規出店数の10%くらい出店していこうと言っています。今期は「しまむら」を40店出店するから3~5店くらいです。
――大型店は都市部立地で。
北島:いや全部。当然、銀座もあれば池袋、新宿、渋谷、原宿でもいいし、大阪なら心斎橋筋や御堂筋、大阪駅周辺でも。都市の郊外でも可能で大宮ならさいたま新都心の道路沿いにフリースタンディングで出店するのもいい。
駅周辺、人が集まる場所の付近という考え方です。県庁所在地単位で考えれば、北関東や東北の県庁所在地の市の一番いい立地にフリースタンディングを出していく。逆にその周りの店を閉店して少し減らしてもいい。
大型店とは1300m2以上ですが、もう少しハードルを上げて1500~2000m2にして、900~1000m2くらいまでを標準、さらに都市部などに700m2以下の小さい店があるという捉え方でいいのではないかと。品揃えは標準があり、小さな店はラインカットして、大きな店はラインロビングして別のくくりの売場を付加していきます。
あとは個々の店の特徴に合わせてインバウンド対応商品のくくりを作ったり。そうして個店別に拾っていくと10~20店の単位で意外にいろんなものが出てくるので、それをきちんと品揃えしてやる。当社にはサプライヤー網が400~500社あるので可能です。
――GMS(総合スーパー)への出店は。
北島:今はダイエー、西友、イオンなど20店くらいかな。GMSは衣料品売場が苦しい。でも地域の人にとっては普段使いの売場がなくなると大変です。要望があればGMSにも積極的に出店したいと思います。
――今後の商品政策は。
北島:PBは「クロッシー」「クロッシー バリュー」「クロッシー プレミアム」と価格帯別に3段階にして、まずはPB比率40%を目指すというのが商品の大方針です。「クロッシー」の中心価格は商品によりますがレディスで1500円、1900円。上の「プレミアム」は2900円、3900円。一部ジャケット・コートで5800円、7800円。
下の「バリュー」は3桁です。
――今後の海外戦略は。
北島:この3年間は現在展開している中国と台湾以外の新たな地域には出店しません。もしかしたら中国では店は上海と蘇州にしか出さずに、昨年スタートしたネット通販で全部商売するかもしれません。店は展示と在庫処理の場と位置付けてもいいかもしれませんね。
※本記事は『販売革新』2018年6月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。
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