浦和レッズの主軸であり、今や日本代表の中心的な存在としても活躍する槙野智章選手。
前編では、年上にも物おじせず自分の意見をしっかり言えた小学生時代、「自分の好きなことを一生懸命やりなさい」と温かく見守ってくれたご両親への感謝、そして突如訪れたサッカー選手としてのターニングポイントについてお伺いしました。
FWからDFへ。新たな生きる道を見出した槙野智章選手ですが、決して自分の力だけで成長できたとは考えていません。自身のキャリアを振り返れば常に、指導者に恵まれたという感謝の想いがあります。
(取材・文:原山裕平)
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(浦和レッズと日本代表の中心的存在へと成長した槙野選手)
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■森山佳郎監督に学んだのはサッカーの技術ではなく、人間的な成長の部分
「実はジュニアユースに入った頃、少しグレまして(笑)。ついつい遊んでしまったり、親に反発することもありました。もちろんサッカーは一生懸命やっていたつもりですが、ある日、小学校時代の監督に会った時、こう言われたんです。『お前の目はサッカーに真面目に向き合っている目つきじゃないね』って。自分にも思うところがあったので、その言葉でふと我に返って。そこから、もう一回サッカーに集中することができたんですが、そういうことを言ってくれる人がいることは、運が良かったですし、奇跡的な出会いだったのかなと思います」
槙野選手が出会ってきた指導者には、共通点があったと言います。それは、サッカー「だけ」を教えてくれる人たちではなかったということ。
「サッカーを通じて、様々なことを教えてくれました。人間としてどう成長し、自立していくか。厳しい指導も受けたけど、そこには愛があったのだと感じています。だから、僕はここまで来ることができたんです」
広島ユース時代に指導を受けた森山佳郎監督も、まさに「サッカー以外」を教えてくれた指導者でした。現在、U-16日本代表監督を務める森山さんは、技術以上に態度や気持ちの部分をより重視する監督だったといいます。
「サッカーのことはあまり学んだ記憶がないですね(笑)。気合いとか、メンタルとか、勝ちたい気持ちを出せとか。そういうことばかりを言われた記憶があります。感謝することや、挨拶すること、試合に勝つために良い準備をすること。ゴリさん(森山監督の愛称)には、技術ではなく、人間として成長するための大切なことを教わりました」
森山監督の言葉で最も印象に残っているのは「気持ちには引力がある」。これは広島ユースで育った多くの選手たちが、大事にしているフレーズだと言います。
「広島ユースの選手は、みんなその言葉で育ったと思いますよ。勝ちたい、点を決めたい、その気持ちが強いほうに、ボールは転がってくるし、結果は引き寄せられる。これは普段の生活にも当てはまるものだと思います。いい車に乗りたい、良い時計を持ちたい、何かをなし遂げられる人間になりたい。など、人にはいろんな願望がありますが、そう強く思った人だけが、実際にその想いを実現することができるんです」
森山監督の指導は、自身の考えを伝えるだけでなく、様々な分野で活躍した人たちをチームに招き、その経験を選手たちに伝えてもらうという手法も取っていました。
「広島ユースにはいろんな方が講義をしにきてくださいました。ボクシングの選手だったり、陸上の選手だったり、各分野で活躍された方がいろんな話をしてくれました。そのなかで、ボブスレーの選手が講義に来てくれたんですが、『自分の目標は常に見える位置に張っておきなさい』とおっしゃったんです。そこで僕は『日本を代表する選手になりたい』と紙に書いて、普段の生活で常に目に入るところに張っていました」
目標を実際に紙に書き、常に意識することが大事だと槙野選手は言います。現在、日本代表に選ばれるまでに成長できたのも、ユース時代に確かな目標を持ったことが、その要因の一つとなったのかもしれません。
■前向きな発言、姿勢を崩さない理由
サンフレッチェ広島で育ち、海外移籍も経験。現在所属する浦和レッズではアジア制覇も実現しました。一方で、広島時代にはJ2降格を味わい、ドイツでは試合に出られない日々も過ごしました。浦和でも結果が出ない時期に、多くの批判を受けたこともあったと言います。しかし、槙野選手は決して心が折れることなく、常に己を信じて、一歩ずつ着実に、前に進んでいきました。その前向きなメンタリティはどのように育まれたのでしょうか。
「僕だって、心が折れる時もありますし、落ち込むこともありますよ(笑)。ただ前向きに考えること、前向きな発言をすることは意識しています。前向きな姿勢を保てば、自分だけでなく、周りをそういう空気に変えられるし、そういう人たちが集まってくる。そうすれば必ずいい方向に向かっていくはずですから。一方で、考えなくてはいけないし、悩まないと成長しないとも思っています。子どものころから物事について色々考える習慣が身についているんです。常に明るく振る舞っているように見えますけど、僕だって考えているんですよ(笑)」
そんなスタンスを崩さない槙野選手は、日本代表の現状をどのように捉えているのでしょうか。ハリルホジッチ監督から西野朗監督に代わり、果たしてワールドカップでどこまで行けるのか。それでもやはり、槙野選手は力強く前を向きます。
「2010年の南アフリカの時も大丈夫かと言われていましたけど、結果的に決勝トーナメントまで進みましたし、僕が2007年のU-20ワールドカップに出た時も、まったく期待されていませんでしたが、グループリーグを突破できました。今回も不安視されていますけど、逆にそういう状況のほうが良い結果を出せるかもしれません。皆さんの想いを良い意味で裏切りたいですし、サプライズを起こしたい。今はそういうふうに考えています」
開幕前は不安視されていた日本代表ですが、4年前に惨敗したコロンビアに勝利を挙げ、フィジカルとスピードが持ち味のセネガルには2度追いつき引き分けで勝ち点1をもぎ取りました。グループ首位に立っているとはいえ、3戦目を控えまだまだ油断はできません。それでも、この先どこまで日本代表が躍進を遂げられるのかわかりませんが。前向きで強いメンタルを備えた槙野選手なら、チームの雰囲気づくりやプレー以外での貢献も含め代表選手として子どもたちの手本になる姿を見せてくれるはずです。