【欧州遠征の真実|後編】ハリルホジッチ監督の狙いと異なっていたウクライナ戦のプレーデータ
4月7日付けで日本代表指揮官の座を追われたバヒド・ハリルホジッチ監督にとって、最後の試合となったのが3月の欧州遠征2連戦だった。マリ代表、ウクライナ代表との2試合から、日本サッカー史上初となるワールドカップ(W杯)予選後の解任に至った“何か”が見えてくるのか。マリ戦を振り返った前編に続き、今回は1-2で敗れたウクライナ戦をデータで分析したい。
“仮想セネガル”のマリを相手に1-1と引き分けた日本代表は、4日後の3月27日、同じベルギーのリエージュでウクライナと対戦した。ハリルホジッチ監督は、マリ戦のスターティングメンバ―からDF長友佑都(ガラタサライ)、DF槙野智章(浦和レッズ)、MF長谷部誠(フランクフルト)以外の8人を変更。本番に向けたテストというよりも、いまだ選手選考、あるいは築き上げてきたスタイルとは異なる戦い方を模索する指揮官の姿がそこにはあった。
ゲームプランとしては、マリ戦以上に前からの守備を意識すること、全体をよりコンパクトにすること。そして攻撃面では裏への狙いは変わらないものの、単純に蹴りこむのではなく、つなぐべきところはつなぐことも意識したように見えた。
[DATA-1]と[DATA-2]は日本とウクライナがボールを失った位置を、前半と後半に分けて示した図だ。ウクライナは、前半は高い位置でコースを限定してミドルゾーンでボールを奪い、後半はやや低い位置で奪っていた。一方の日本は、前半は後ろ気味、後半はかなり前から積極的に奪いに行っていたことが窺える。
本来ゲームプランとして決めたことは、試合開始30分くらいまでに反映されることが多い。開始直後は多少慎重であっても、慣れてくるにしたがってその試合でやるべきことに対して体が順応してくるからだ。しかし、前半の日本のデータからは、高い位置からのプレスの意識はさほど見て取れない。相手が思ったより前から来て戸惑ったのか、自分たちで少し様子を見たのかどちらかだろう。前半21分にオウンゴールで1点を失い、同41分に槙野のゴールで追いついたことで、後半にスイッチが入ったのかもしれない。
パスデータはウクライナの数値を軒並み下回る
[DATA-3]を見れば分かるとおり、この試合の守備データは必ずしも悪くない。守備、攻撃、空中戦、地上でのチャレンジと、全てにおいて日本の勝率がウクライナに勝っていた。ドリブルの成功数やタックル成功数では多少負けていたが、わずかな差でしかない。
相手陣内でのインターセプトやルーズボール奪取数は日本の方が多かった。前半は高い位置からボールを奪いに行くことができていなかったが、試合を通して守備のデータはマリ戦から改善されていた。
それではマイボール時、すなわちパスに関するデータはどのような変化を見せたのだろうか。マリ戦の反省から単純に蹴りこむのではなく、つなぐべきところでつなぐ意識はプレーデータに反映されていたのだろうか。
試合を通して「蹴れ」という声が多かったマリ戦。その試合のボールポゼッションは54%対46%と日本が上回っていたが、続くウクライナ戦では[DATA-4]のとおり、43%対57%とかなり低くなっていた。オープンプレーにおけるポゼッション数自体は100対103とほぼ同数だったが、日本は10秒以下のポゼッションが多く、20秒~45秒という長い時間持つプレーはウクライナの半分以下の数字だった。
種類別に見たパスのデータでも、ウクライナの方が多くの項目で高い数値が出ていた。[DATA-5]で示したとおり、例えば1試合を通した縦パス、横パス、オープンプレーからのパス、ペナリティーエリアへのパス、ミドルゾーンへのパス、アタッキングゾーンへのパス、ロングパス、クロスなどはいずれもウクライナの方が成功率は高い。
ハリルホジッチ監督がチームに求めていた相手最終ラインの裏を狙うパスの多くは、長い縦パスがベースとなる。そのロングパスの本数も成功率も日本の方が低い。縦パスも同様だ。そして単純に裏へのパスだけを狙うのではなく、状況に応じてつなぐことを試みたが、最も頻度の高いミドルパスは日本の305本に対してウクライナは413本、成功率も日本が78%でウクライナ89%と、10%以上も下回るものだった。このデータを見る限り、日本の本来のストロングポイントだったパスプレーもできていない状態だった。
右サイドアタッカーとして“失格”だった本田のプレー
次に、この試合で約半年ぶりに先発したFW本田圭佑(パチューカ)のパフォーマンスは、どうだったのだろうか。左サイドで出場したFW原口元気(デュッセルドルフ)、起点となるべき1トップで起用されたFW杉本健勇(セレッソ大阪)、切り札として起用されたFW中島翔哉(ポルティモネンセ)のデータとともに傾向を見てみたい。
[DATA-6]は、各選手の数値をフル出場(97分)に換算したものだが、本田に最も多くのパスが集まり(47本)、最も多くのパスを出している(43本)のが分かる。だが一方で、本田が前線の選手に出したパスはわずか6本だけ。もちろん、オーバーラップしてくるサイドバックやボランチの選手へのパスが決定的な攻撃に結びつくことは大いにあり得る。しかし他の選手と比較して、圧倒的に前の選手へのパス数が低い。
それでは、さらに分析を進めるために日本の両サイドを務めた本田と原口のプレーエリアとプレーパフォーマンスを見てみよう。[DATA-7]の図を見れば一目で分かるように、原口の方が本田より相手のゴールに近いエリアでプレーしている。
それは数値上でも証明されている。[DATA-8]のとおり、本田はプレー全体の3分の2がミドルゾーンでのもので、アタッキングゾーンはわずか4分の1。また、そこでのプレーの成功率は59%だ。一方の原口は、40%弱をアタッキングゾーンでプレーし、そこでの成功率も73%と高かった。
これを見る限り、本田はアタッカーというより一列後方のプレーメーカーとしての役割をこなしていたことになる。一方、途中交代の中島は初戦よりも出場時間は短かったがこの試合においても攻撃の切り札として十分な役割を果たしていた。短時間に3本のシュートを打ち、そのうち2本は枠内シュートだった。
「やろうとしたこと」と「できていたこと」の乖離
この2試合のデータを通して見て取れるのは、ハリルホジッチ監督がやろうとしていたことと、日本代表がチームとしてできていたことが必ずしもマッチしていないということだ。
マリ戦では、デュエルの面では十分な結果は得られていない。高い位置でのプレーはできていたが、そこでの精度は必ずしも高くなかった。両サイドの選手の攻撃への貢献も監督の狙い通りにはいっていなかった。
マリ戦の反省から、裏を狙いながらもつなぐところはつなぐことを目指したウクライナ戦だったが、裏を狙うプレーも、つなぐプレーもどちらにおいてもウクライナに後れを取った。デュエルにおけるデータは良かったが、それだけデュエルの状況に陥るシーンが多かったということでもあり、手放しでは喜べない。前線の4枚を全て入れ替えて臨んだ試合だったが、両翼のうち右サイドの本田は高い位置で羽ばたくことはなく、中盤のゲームメークに多くの時間を割いた。
この2試合で唯一の光明は、途中交代で切り札としての役割をこなした中島のプレーだったように思う。
欧州遠征を終えてハリルホジッチ監督は解任された。これは事実であり、覆ることはない。W杯を目前に控えたなかでのチグハグ感、それは単なる感覚ではない。データから浮かび上がった事実として見た場合、「大丈夫だろうか?」という疑問が浮かぶのは自然な流れとも言える。最終的に“継続不可”というのが日本サッカー協会の判断であり、それを少しでも良い方向へ導くために西野朗新監督を選んだことになる。
W杯直前の監督交代は、果たして日本に良い結果をもたらすのか、それとも崩壊への道を歩むのか。テストの意味合いが色濃かったとはいえ、データを見る限り3月時点の日本代表に本大会で旋風を巻き起こす予感はなかった。
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データ提供元:Instat
(Football ZONE web編集部)