『小学校の運動会で』
「そろそろ(囲み)取材はいいですか? このあと、彼との練習がありますから」と、嬉しそうに、その場を後にした松井秀喜氏(44)。
2018年2月、臨時コーチとして参加した巨人の一軍キャンプでの一幕だ。松井氏が「彼」と呼んだのは岡本和真(21)。まだ、 “ブレイク前夜” のことだった。
21歳というと、「就活」真っ最中の大学4年生と同世代。にもかかわらず、今季の岡本は大活躍。王貞治氏に次ぐ年少記録で、第89代巨人軍4番に座り、前半戦82試合を終えてチーム最多の16本塁打、リーグ4位タイの50打点。
この若武者を松井氏が気に入っているのには理由がある。松井氏は臨時コーチとしてキャンプに参加すると、「どんなことでもいいから、気軽に声をかけてきてください」と呼びかける。
だが、「指示待ち」「打たれ弱い」などと揶揄される世代とあってか、進んで指導を受ける若手選手はいない。しかし、岡本は違った。唯一、自ら指導を乞うたのだ。
「多くのコーチ、OBがなにかとアドバイスしてきたが、納得しないと岡本は受け入れなかった。だが、松井氏からの、軸足に重心を残すという打撃論と精神面のアドバイスにはうなずいた。それが今季のブレイクに繋がった」(担当記者)
高校野球の強豪・智辯学園からドラフト1位で入団したとあって、期待は大きかった。
「岡本は物怖じしない性格だが、周囲からは『期待が大きいのに、危機感がないのか?』と思われていた。しかし、本当は人の見ていないところで黙々と練習する選手」(同前)
『巨人ファンはどこへ行ったのか?』の著者で、長年岡本を取材している菊地高弘氏も、あるエピソードを語る。
「わかりやすく言うと、あまのじゃくな性格です。中学時代、強いチームにいたので、高校の監督が見に来る。アピールしたいのが普通の選手だと思うのですが、岡本の場合は誰かに見られて張り切るというのは違うと感じて、わざとずっとセカンドゴロを打っていたそうです(笑)」
そんな “大物感” を醸し出す岡本には、ほかにもいまどきの若者らしからぬ逸話がある。
「開幕からのスタメンを勝ち取った大きな要因は、オープン戦で打点が12球団トップだったから。だが、この成績をコーチや坂本勇人、長野久義らが『どうせオープン戦だけの打上げ花火だろ』と茶化した。言われたときは笑ってごまかしていた岡本だが、じつは相当悔しく、負けじ魂に火がついた」(巨人軍関係者)
オジサンたちが新入社員を、「どうせすぐダメになるだろ」と茶化したら、“パワハラ案件” になりそうなものだが、岡本はこれを発奮材料に変えた。交流戦終了時点で、打率.322、12本塁打、43打点と文句なしの成績だ。
最後に、小学校時代に所属していた「軟式野球カインド子供会」の監督だった藤井利夫さんが “怪物伝説” を語る。
「選手が少なかったこともありますが、小学校2年生で岡本に投手をやらせてみようと。それで先発させると、全国大会出場経験のある強豪チームを完封したんです。そんなことがあって、岡本を警戒し、偵察しようと、急に多くのチームから練習試合の申し込みがあったんです」
怒りをバネにした若武者に、巨人唯一の光明がある。
(週刊FLASH 2018年7月10日号)