犬の脳腫瘍は、発見が難しく治りにくい病気のため、犬の異変に気がついたら、初期症状のうちに動物病院を受診することが大切です。今回は、愛犬が脳腫瘍と診断された時の治療方法や介護(ホームケア)についてご紹介します。
目次
犬の脳腫瘍について
犬の脳腫瘍の進行とその症状
脳腫瘍の治療法
脳腫瘍の犬の介護とお世話
腫瘍は早期発見が大切
犬の脳腫瘍について
引用元:Getty
犬の脳腫瘍は、主に髄膜腫、グリオーマ、脈絡叢乳頭腫などの「原発性脳腫瘍」と、ガンの転移による腫瘍や鼻腔、頭蓋骨などの脳に隣接する組織から発生した腫瘍が、脳に障害をもたらす「続発性脳腫瘍」があります。
犬の脳腫瘍は、どのライフステージでも発生する可能性があり、多くは「原発性脳腫瘍」で、5歳以降に発生する犬が多く、特に中高齢犬に発生する確率が高い傾向があります。脳腫瘍発生のメカニズムは詳しく解明されておらず、はっきりとした原因は不明です。
犬の脳腫瘍の症状
犬の脳腫瘍は、10万頭に約14頭発生するといわれており、珍しい病気ではありませんが、人間と同様に、自覚症状はほとんどなく、早期に発見することは困難といわれています。愛犬の今までと違うおかしな行動で異常に気がつくことが多いです。
- 元気がない
- 食欲がない
- 物にぶつかる
- 眼振(眼球が揺れる)
- ふらつきが多くなるといった運動機能の低下
- 性格が変わる(怖がる、噛み付く、吠えるなど)
- 大量のよだれが出る
- 痙攣発作や繰り返すてんかん発作を起こす
- 認知症のような症状がみられる
- 視覚や聴覚の異常
- ずっと寝ている(嗜眠)
- 興奮した状態に突然眠ってしまい力が入らなくなる(ナルコレプシー)
- 麻痺が出る
- 意識障害など
脳腫瘍は、できるだけ早期発見することがポイントとなるので、このような症状がみられたら動物病院を受診しましょう。
脳腫瘍の初期症状
犬の脳腫瘍の臨床症状は、けいれん発作が最も多いですが、中には目立った症状もなく、元気消失だけしか認められない場合もあります。脳神経に関わる病気はさまざまな症状がみられるので、脳腫瘍の可能性にかかわらず、けいれん発作が認められた場合には、獣医師に相談しましょう。
犬の脳腫瘍の診断
犬の症状や病状の経過から、脳腫瘍の可能性があると診断されることもありますが、状態によっては、全身麻酔下でMRI、CT、脳脊髄液検査を行い、MRI画像やCT画像の画像診断を行うことが多いです。血液検査では脳腫瘍の診断はできません。
脳腫瘍に似ている病気
脳腫瘍でなくても、低血糖や肝臓の問題、脳炎や脳梗塞、原因不明のてんかん、ジステンパー感染、中毒などで、脳腫瘍と似た様な症状が認められることがあります。
例えば、けいれん発作は、脳腫瘍に関連しているものや、別の脳の異常による可能性もあります。また、老犬の徘徊や旋回が、認知症によるものだと思っていたら脳腫瘍であったということもあり得ることです。他にも、平衡感覚の障害をもたらす前庭症状(前庭疾患)も脳腫瘍と似ている症状として間違われやすい病気です。脳腫瘍の特徴としては、治療を行わなかった場合は進行し、けいれん発作などの神経症状が悪化していくといわれています。
どの病気にしても、自己診断はせず、病院でしっかりと検査を行って確定診断をすることが大切です。
犬の脳腫瘍の進行とその症状
犬の脳腫瘍の症状は、けいれん発作だけではなくさまざまな症状があり、進行していく傾向があります。脳腫瘍と診断された時に大切なことは、必ず獣医師や動物病院と密に連絡をとることです。急なけいれん発作が起きた場合の対処法や緊急の場合の連絡先など、予測される事態に対応できるように獣医師とよく話し合っておきましょう。
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脳腫瘍が進行すると
脳腫瘍が進行すると、腫瘍が発生した部位や進行度により症状は異なりますが、けいれん発作が重症化したり、視力喪失や性格の変化、行動変化、徘徊、旋回、神経障害なども認められることがあります。脳腫瘍は、適切な診断が必要な病気です。
治らない脳腫瘍と介護
犬の脳腫瘍の予防法はありません。もし、脳腫瘍と診断された場合は、まず治療の選択肢や予後などについてしっかりと説明を受け、治療をしなかったらどうなるのかという場合についても話し合っておいた方がよいでしょう。どうしたら愛犬にとって良い選択肢となるのかをしっかり家族で話し合いましょう。
脳腫瘍の治療法
犬の脳腫瘍の治療方法は、投薬に加えて外科手術、抗ガン剤の投与、放射線治療といった「積極的な治療」と投薬によって症状を抑えながら、自宅で愛犬の介護をする「保存療法(緩和ケア)」があります。
外科治療
脳腫瘍の中でも、犬の髄膜腫は、早期に発見でき、外科手術を行って腫瘍を切除することで、日常の生活を維持させることができるケースもあります。しかし、多くの脳腫瘍は、手術自体が難しいことに加え、合併症などのリスクが高く、実際には手術ができないことが多いです。
放射線治療
脳腫瘍を取り除く手術ができないケースには、延命を目的とした放射線治療もあります。放射線を局所的に腫瘍に照射する治療になりますが、毎回全身麻酔下で行うことと、照射後に治療を行なった部分に脱毛が起こること、皮膚炎などの副作用も起こります。治療には、愛犬への負担や高額な治療費用などについても獣医師との確認が必要です。
化学療法(抗がん剤治療)
脳腫瘍の種類によっては、化学療法(抗がん剤治療)を行い、効果が認められるケースもあります。ただし、抗がん剤を使用した治療は、血液脳関門により脳に薬剤が浸透しにくく、効果が得られない上に、副作用が認められることも多く、犬の体力などから考え、治療方法が適しているのかを、獣医師と話し合う必要があります。
投薬治療・保存療法(緩和ケア)
脳腫瘍の治療には、積極的な治療を行わずに、お家でゆっくり過ごす「保存療法(緩和ケア)」を選ぶ方法もあります。投薬をしながら愛犬の生活の質(QOL)を保って、最期の時まで余命を過ごす治療となりますが、病状が進行すると自宅での介護が必要となります。
保存療法の場合は、投薬によって脳の浮腫を減らすことで、けいれん発作を抑えていくために、ステロイド剤の投与と抗けいれん薬の投与を行うことが多いです。
どのような治療を受ける場合でも必ず獣医師の説明をしっかりと受け、ご家族が納得した上で行うべきでしょう。
脳腫瘍の犬の介護とお世話
脳腫瘍の犬の介護を行う場合には、症状が進行すると、家の中で高い頻度で痙攣発作を起こすことも想定されます。
どのような症状が表れるかは、個体によって異なりますが、けいれん発作や脳の圧迫による脳へのダメージからくる老犬の認知症に似た症状、排泄困難、寝たきりによる床ずれなどに対して、さまざまなケアが必要となります。介護(ホームケア)で犬を看取るとしても闘病は非常に辛いものとなるため、発作や痛みに苦しむ犬を前に安楽死をすすめる獣医師もいます。
愛犬が脳腫瘍になったら気をつけること
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愛犬が脳腫瘍と診断されたら、気をつけることは、痙攣発作が起きたときに、愛犬が室内の障害物にぶつかったり、階段から転落をしないように気をつける必要があります。
屋外では、階段や段差で転ばないようなお散歩ルートを選んで歩くようにしましょう。さらに、プールや川、海、湖での痙攣発作は、溺れて命に関わる可能性もあるので、注意が必要です。
脳腫瘍は早期発見が大切
犬の脳腫瘍は、進行性のため、早期に発見し、治療を開始する必要がありますが、症状もわかりにくいので、飼い主さんの気が付いた時でさえ症状が進行している可能性が高いです。
腫瘍のある場所や原発の細胞によって、さまざまな治療を試す中で、外科的に取り除くことができれば完治となりますが、犬の脳腫瘍は治りにくい病気です。脳腫瘍に関連する症状に気が付き、愛犬の様子がいつもとおかしいと感じたら、できるだけ早い段階で獣医師に相談することをおすすめします。
監修:いぬのきもち獣医師相談室
文/maki
※一部の写真は「いぬのきもちアプリ」で投稿されたものです。記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください