フィギュアスケートの審判が自国選手に有利な採点をしているデータが。うち16人は平昌五輪に参加する
フィギュアスケートのトップレベルの大会で、審判らが自国の選手により高い評価点を与えていることが、BuzzFeed Newsのデータ分析により明らかになった。最終結果に影響を与えた例もある。そして、最も自国に有利な採点をしていた審判16人は、平昌オリンピックに審判として参加している。
BuzzFeed Newsの英語版記事をもとに翻訳、再構成したものです。
フィギュアスケート競技で自国びいきの採点がはびこっていることが、BuzzFeed Newsのデータ分析で判明した。平昌五輪に参加する審判48人のうち16人が自国びいきの採点を示していた。このバイアスが偶然起きる確率は10万分の1以下となる計算だ。
フィギュアスケートでの自国びいきは、競技関係者の間でも長い間、噂されていた。オランダのスケート連盟は2017年秋、「国によるバイアスが明確に存在する傾向を示している」として、国際スケート連盟(ISU)に対し、自国びいきに対して厳しい対策をとるよう求める提言書を出しており、ISUは今年6月の年次総会で、この問題を協議する見通しだ。提言書を立案したオランダ人審判のJeroen Prins氏はBuzzFeed Newsに「自国バイアスが十分チェックされていない。多くの人々が同じ懸念を持っていると思う。審判による評価で順位が決まるスポーツには、信頼性が必要だからだ」と述べた。
BuzzFeed NewsはISUが個々の審判の採点結果を公表するようになった2016年10月から2017年12月までに開かれた17の国際大会の採点結果を対象に、データを分析した。対象となった大会には、2016年、17年のNHK杯など日本で開かれた複数の大会も含まれている。
その結果、1600以上の演技を通じ、各国の審判が、自国の選手に対して平均で3.4ポイント、有利な採点をしているという傾向が浮かび上がってきた。この現象は男子、女子、ペア、アイスダンスの全競技でみられたうえ、特にスケート界で有力とされる国の審判で強い。中国の審判は中国人選手に平均して4.6ポイントの有利な点を与えていた。これは、データにあった少なくとも50の自国びいき採点でも、最も大きなものだった。イタリア、ロシア、米国、カナダも、自国の選手に3.4ポイント以上の有利な点を与えていた。
カナダのケイトリン・オズモンド選手
自国へのバイアス
主な自国バイアス
中国 4.6ポイント
イタリア 4.1ポイント
ロシア 4.0ポイント
アメリカ 3.5ポイント
カナダ 3.5ポイント
フランス 2.7ポイント
日本 2.4ポイント
こうした自国びいきは、スコア全体からみれば小さな割合だが、最終順位を変えるのに十分な数値となることもあり得る。2016年10月のプログレッシブ・スケート・アメリカでは、ロシア人のMaira Abasova審判が同じロシア出身のセルゲイ・ボロノフ選手に対して、一人を除くどの審判よりも高い得点をつけた。
Abasova審判の採点は、ボロノフ選手が5位の選手を0.20ポイント上回って4位に入ったことに影響を与えた。この審判の採点を他の審判の平均点に置き換えると、ボロノフ選手は5位に転落するのだ。Abasova審判のコメントを求めたBuzzFeed Newsの取材に、ロシアのフィギュアスケート連盟は「彼女はコメントを求める手紙の存在は知っているが、コメントはない」と答えた。
そしてBuzzFeed Newsは、200人以上の審判の分析を通じ、10カ国の計27人に強い自国びいきの傾向を見いだした。そのうち16人は、平昌オリンピックに審判として参加する予定だ。16人には、ロシアから派遣される3人全員、中国の3人、米国とカナダのそれぞれ2人が含まれる。
なお、日本人審判は18人が分析対象となったが、自国バイアスが目立つ審判27人に日本人の名前はなかった。また、日本人審判が採点で日本人選手に与えた自国バイアスは平均2.4ポイントで、分析データでの各国平均(3.4ポイント)を下回った。BuzzFeed Newsは27人全員に対し、本人に直接か各国の連盟経由で連絡を取った。審判や連盟のほとんどはコメントを拒否したが、イタリアのWalter Toigo氏は「みんな意見は違う。私たち審判は、見たもので審査する」とBuzzFeed Newsに語った。
Toigo氏はイタリア人選手に対して平均で7.5ポイント有利にしており、これは調査対象の審判で最も強い自国びいきバイアスだ。Toigo氏は「我々は人間であり、機械ではない。私は自分の考えに基づいて審判し、すべての選手に公平であろうとしている」と語った。また、カナダ・スケート連盟は「平昌五輪に参加するカナダ人審判はすべて基準を満たし、ISUの規則に基づいて承認を受けている」とコメントした。
ISUは、採点にバイアスが加わる可能性やミスの存在をつかむ独自のアルゴリズムを持っている。
平均よりも明らかに高い得点を自国の選手に与えたようなケースを自動的に検出し、それを改めて技術委員会で協議する仕組みだ。だが、数人の内部関係者は、これが十分な効果を上げていないと指摘する。
審判の統括や処罰を担当した2人の元ISU幹部はBuzzFeed Newsに、アルゴリズムは極端なミスしか把握できないと語った。ISUのシステムは一度に一つの演技しか判断せず、平均から大きくかけ離れた例しか警告を発することができない。ある審判が、特定の大会で特定の自国の選手に審判団の誰よりも高い採点を与えた場合、アルゴリズムは異常があったと判断し、技術委員会が、ミスやバイアスの有無を調べることになる。
一方でアルゴリズムは経年的なパターンを追わない。だから、審判が自国の選手にそれほど目につかないような加点を、常に、別の演技でも、長期間にわたって与えたとしても、発見することはできない仕組みなのだ。
なぜこうした「自国びいき」が生まれるのか。
現職や元職の審判らへの取材を通じて浮かび上がってくるのは、採点が自国に有利な形となっているのは、必ずしも審判が意図的に自国の選手の順位を引き上げようとした結果とは限らない、ということだ。スコアの違いは、地域的なスケートスタイルの違いを示していることもある。文化的な違いが、地元地域のスケートに対する好意的な判断を生むことがあり得る。審判が目をかけていた選手だったりすることも、愛国主義が理由だったりすることもあり得る。審判が自らがバイアスを持っていることに気づいていない可能性もある。多くの場合、審判らは自国の選手が競技のなかで揉まれ、成長してきた姿を見て、国内での大会で頻繁に採点し、演技の内容も知っている。こうした全ての要素が、自国へのバイアスとなり得るのだ。
また、審査の作業は極めて難しく、細かい技術の評価などをその場で採点していく必要があり、座った場所が審査結果に影響を与えることもあり得る。27人の審判のうち複数は、技術審査の正確さや公正さで高い評価を得ている。
一方で、少なくとも3人の現職と元職のISU当局者らが、特定の国の得点をかさ上げしたり、引き下げたりする審判がいることを認めた。コーチや審判が選手を巡りロビー活動を行うこともあり、ある選手の得点がすでに決まっていることもあるという。「時々、5〜6人の審判が、これからどう採点するかを事前に合意していることもある」とある審判は語る。この審判は「話し合いに参加しない審判の得点がほかと揃わず、逆にバイアスをかけていると見られることもある」と言う。
1月20日、モスクワでの競技会で演技するロシアのエフゲニア・メドベデワ選手
各国の連盟が、オリンピックに参加する自国の審判を選ぶ仕組みが、バイアスを強める可能性があると指摘する関係者もいる。各国連盟にとっては、自国の選手に高得点を与える審判の方がいいからだ。米国の元選手ティム・ガーバー氏は「審判が望む行動を取らなければ、各国の連盟は別の審判を任命することになる」と語った。
ISUはBuzzFeed Newsの分析結果に対してコメントすることや、審判の評価などを巡る詳しい質問に回答することを拒否し、「ISUは全主催大会で審判の判断をモニターしており、採点ミスをしたり特定の選手を有利にするような審判は警告を受け、処分される」とする声明を出した。
BuzzFeed Japanは平昌オリンピック・パラリンピックに関する情報をお届けしています。